飲酒といびき
紀元前3~4千年のメソポタミア文明には人類は飲酒をしていたと考えられています。日本でも縄文時代からアルコールが飲まれていたとされていますが、平安時代に酒は上流階級の中でポピュラーとなっていたようです。江戸時代になり一般化した飲酒の文化は、現在コンビニエンスストアでも簡単にアルコールが購入することができ、より身近なものになっています。
世界保健機関(WHO)が2018年に報告した内容によると、成人1人当たりのアルコール消費量の世界一は、15歳以上の年間消費量が15.2リットルでモルドバ共和国です。ウクライナとルーマニアに挟まれおり、九州よりやや小さい国土に約360万人が生活するモルドバ共和国は、ワインの産地でもあり、ビールの種類、ウォッカが豊富であり、しかも価格が安いためか消費量が多く示されています。ドイツは13.4リットルで4位、フランスが12.6リットルで11位、アメリカは約9.8リットルで41位です。アジアでは韓国が37位で最高です。日本は年間成人消費量が8.0リットルで世界71位です。
アルコールを適量に飲めば健康に良いとされています。その効果は食欲を増進させたり気持ちをリラックスさせたり、会話が増えることで人間関係をスムーズにしたりします。最近では適度なアルコールは血糖値を下げる効果や善玉コレステロールを増加させる作用があることがわかっています。しかしアルコールの摂取量が大量になると逆に高血圧や狭心症、肝機能障害、糖尿病が発生してきます。さらに運動機能を麻痺や意識障害などの副作用が出てきます。この酔いの作用は血液中のアルコール濃度によって変化してきます。公益社団法人アルコール健康医学協会の示した表を示します。
血中アルコール濃度 | 酩酊状態 |
---|---|
0.02-0.04% | 気分さわやか、皮膚が赤くなる、陽気になる |
0.05-0.10% | ほろ酔い気分、手の動きが活発、理性が失われてくる、体温の上昇、脈が速くなる |
0.11-0.15% | 気が大きくなる、大声を出す、怒りっぽくなる、フラツキが生じる |
0.16-0.30% | 千鳥足になる、呼吸が速くなる、吐気、嘔吐 |
0.31-0.40% | 意識がはっきりしない、まともに立てない |
0.41-0.50% | 昏睡状態、死亡 |
血中アルコール濃度は次の計算式で算出されます。
血中アルコール濃度(%) =
飲酒量(ml)×アルコール度数(%) |
833×体重(kg) |
また、厚生労働省は「節度のある適度な飲酒」としては、一日平均純アルコールで約20gとしています。純アルコール量は以下の計算式でわかります。
純アルコール量(g)
||
お酒の量(ml)×アルコール度数(%)/100×0.8
純アルコール20gはおおよそ以下の量です。
ビール | 日本酒 | ウイスキー | 焼酎(25度) | ワイン | チューハイ |
---|---|---|---|---|---|
500ml | 1合(180ml) | ダブル1杯(60ml) | 100ml | 200ml | 缶1本(350ml) |
アルコールを飲むと眠くなりますが、これは脳内の興奮物質を抑えることで生じる鎮静作用です。アルコールを少量飲むとこの作用により寝つきが良くなります。しかし、アルコール量が増えてくると睡眠時間の中で最初に深い眠りが増え、後になり眠りが浅くなり夜中に目が覚めやすくなることが報告されています。さらに量が増えると催眠効果が減り、さらに睡眠時間が短くなるという負のスパイラルに入ってしまいますので気を付けなくてはいけません。
このように、過量な飲酒は睡眠障害を引き起こします。また、飲酒は睡眠時無呼吸症を引き起こすことも30年以上前から指摘されています。1982年シドニー大学からの報告では、睡眠時無呼吸を持っていない慢性いびき症の人が飲酒後に睡眠時無呼吸症状を起こすことを示しています。さらに、もともと睡眠時無呼吸症を持っている人は飲酒により無呼吸症状が悪化することが各国から報告されています。これらの報告では、純アルコール量が体重換算で1g/kg摂取すると睡眠時無呼吸の症状が悪化します。これは、体重60kgの人ですとビールでは中瓶3本、ワインでは5~6杯、缶チューハイ3本の量です。
酔っぱらった人がいびきをかいて寝ているのを見たことがあると思います。また、普段いびきをかかないのにお酒を飲んで、いびきをかいていると指摘されたことがある人もいると思います。このように、飲酒といびきには因果関係がありそうですが、実際はどうなのでしょうか?1989年457名を対象に調べたフランスからの報告では習慣性飲酒といびきには因果関係が認められなかったとされています。2010年のドイツからの報告でも飲酒により、慢性いびき症のいびき音が大きくなることは認められるも、いびきをかいていない人がいびきをかくようになるかは各個人によって様々であることが示されています。つまり、飲酒によっていびきは増悪しますが、普段いびきがない人にいびきをかかせるわけではないことがわかります。ではいびきのなかった人が飲酒によっていびきをかく場合は、もともと上気道に狭窄があり「隠れいびき症」であった人が飲酒により狭窄が悪化しいびきをかくようになったと考えられます。
アルコールが睡眠時無呼吸症を生じさせる機序はいくつか考えられています。鼻腔粘膜を充血させ鼻閉を生じたり、舌を支えるオトガイ舌骨筋を支配する舌下神経を麻痺させ舌がのどに落ち込みやすくなったりして上気道を狭窄させ、いびきや無呼吸の原因となります。無呼吸となると血中の酸素濃度が落ち、それがセンサーとなり覚醒し呼吸が回復することが通常です。アルコールでそのセンサーが鈍感となり覚醒しにくくなるために無呼吸が助長されます。また、アルコールによる睡眠障害が睡眠時無呼吸症を悪化させることもわかっています。
これまで述べたように、飲酒はもともといびきや睡眠時無呼吸症を持つ人がその症状を悪化させることがわかっています。よってその治療は、飲酒を控えるまたはその摂取量を適量にすることに尽きます。飲酒による睡眠時無呼吸症は、上気道が狭くなる閉塞性睡眠時無呼吸なばかりでなく、呼吸のセンサーが麻痺する中枢性睡眠時無呼吸を起こすために、例えば手術などにより上気道を拡げるだけでは改善しません。しかし、いびきは上気道の狭窄で生じます。舌がのどに落ち込むことによる狭窄は、寝相を変えることで咽頭が拡がりますので、横に向けて寝かせる(側臥位)といびきが改善する可能性があります。慢性のいびき症や飲酒時の隠れいびき症の場合、もともと鼻閉や咽頭狭窄がある可能性が高いので、その原因を専門の医師に診てもらうことを勧めます。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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