嚥下といびき
いびきの患者さん中に、飲み込みが悪いことを訴えて来院される方がいます。飲み込み(嚥下)とは、基本的に口から入れた物が、のどを通過して胃に入るまでのことをいいます。嚥下障害はその通り道に何か問題が生じることでおきます。
一方、いびきは睡眠中に鼻やのどなど空気の通り道(気道)の狭い部分に空気がぶつかり振動しておこる異常な呼吸音のことです。
つまり、気道と嚥下の通り道は一部分が同じです。気道が狭くていびきとなる人が、嚥下障害を起こすことはなんとなく理解できますが、実際にはどのようなメカニズムでいびき患者さんに嚥下障害が起きるのか解説したいと思います。
まず、嚥下の仕組みについてお話しします。嚥下は私たちが日常的に行っています
この複雑なシステムで食べたり飲んだりした物が胃に運ばれていきます。逆に、このシステムがうまくいかないと、うまく飲み込めない、間違って気管に入り誤嚥(ごえん)が生じます。では、いびきの患者さんは何が障害されて嚥下機能が低下するのでしょうか。
いびき症状のある人の約75%に鼻閉があると報告されています。咀嚼中は口唇(くちびる)が閉じられ、通常は鼻呼吸となります。鼻閉があると十分な呼吸ができなくなり、呼吸苦から咀嚼がうまくできず、食塊形成されていないバラバラの食物を嚥下することになり、誤嚥の危険性が高くなります。鼻閉があると嚥下のタイミングが上手くいかず誤嚥を起こす可能性が高くなることを、2019年吉備国際大学の研究にて報告されています。
扁桃は、咽頭扁桃、口蓋扁桃、舌扁桃、耳管扁桃、咽後扁桃(孤立リンパ節群)があります。扁桃肥大は、実際にのどを狭くさせるため、いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因の一つとして考えられています。特に小児の睡眠時無呼吸は、その80-90%に扁桃肥大が関与していると報告されています。咽頭扁桃は鼻と咽頭の境界にあり、その高度な肥大は鼻閉を起こし、先に述べた鼻閉による嚥下障害を生じます。口蓋扁桃は口を開けると見える代表的な扁桃ですが、口蓋扁桃の肥大は口腔から咽頭に食塊が通過しにくくなり嚥下が障害されると考えられています。実際に口蓋扁桃肥大を伴っている小児が、扁桃摘出にて嚥下障害が著明に改善されたことが海外で報告されています。舌扁桃の肥大が嚥下障害を生じさせた症例報告も少ないながらあります。
側面から見て下顎が後方に偏位している下顎後退症は、正面から見て下顎が小さい小顎症を伴っていなくても、舌根が後方に偏位しているために、空気の通り道(気道)が狭く、いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因となります。先天的に下顎が小さいピエールロバン症候群の約50%に嚥下障害があると報告されています。しかし、これは嚥下に関与する筋肉の運動障害によって生じている可能性も示唆されており、下顎後退や小顎自体が嚥下障害を起こすのかは現在のところ議論されています。
空気を吸う時に、反射的に咽頭を拡げる筋肉が動くためのセンサーが咽頭表面の粘膜内に存在しています。アメリカ、カナダ、スェーデンからの最近の研究では、毎日のようにいびきをかいてのどの組織に振動を与えていると、咽頭粘膜が慢性炎症を起こし、センサーが障害され咽頭拡大筋を活動させる反射が起こりにくくなり、いびきや睡眠時無呼吸症候群が助長されることが報告されています。この粘膜障害は嚥下反射に関与するセンサーも障害し、嚥下障害につながります。
またいびきを持つ人の3人に1人は睡眠時無呼吸症候群を持つとされていますが、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは胃食道逆流症(GERD)を20〜40%併発すると報告されています。胃の内容物が食道へ逆流し、胃酸によって食道や咽頭の粘膜がただれてしまうのがGERDです。GERDもセンサーを障害させ、嚥下障害を起こします。2005年東京警察病院内科の検討では、胃酸が喉頭の粘膜炎症を起こし、センサーが障害され嚥下運動開始までの時間が延長することが示されています。
これまで説明してきたように、いびきをおこす様々な要因が嚥下障害の要因にもなっていることが理解できたと思います。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。BMIが30以上の肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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