骨粗鬆症といびき
骨粗鬆症は骨密度の低下と骨質の劣化により骨強度が低下する病気であり、骨折のリスクが増大します。
骨密度とは、骨を構成するカルシウムなどのミネラル成分が骨の中にどれくらい詰まっているかを示す指標です。骨質とは、骨の微細な構造、骨代謝、微小骨折の蓄積、骨組織の石灰化の程度など、骨の強度に影響を与える様々な要因を指します。骨強度は、骨密度が70%、骨質が30%の割合で関与していると言われています。
私たちの体には200以上の骨があり、それぞれの骨で常に新陳代謝が行われており、3〜5年で全身の骨が入れ替わります。古い骨は破骨細胞に吸収され、骨芽細胞が作る新しい骨で補充されます。この骨の新陳代謝機構を骨リモデリングと呼ばれています。この骨リモデリングのバランスが崩れるのが骨粗鬆症の主な原因と考えられています。
2009年東京大学による大規模住民集団に対する大腿骨頸部の骨密度測定の結果、骨粗鬆症の有病率は50代の男性の6.5%、女性の4.8%に認め、70代では男性22.3%、女性42.9%に認められることから、加齢により有病率が高くなることがわかります。人口の急速な高齢化に伴い骨粗鬆症の患者が年々増加しつつあり、その数は現時点では1,300万人と推測されています。
老化による生理的な骨量減少を基盤に、カルシウムやビタミンD、K摂取や吸収不足による欠乏から副甲状腺ホルモンによる骨吸収作用が亢進、運動量の低下や老化遺伝子など様々な要因によって加齢による骨粗鬆症の有病率が高くなります。
女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、骨の吸収を抑制し、骨形成を促進する作用を持っています。女性ホルモンの低下は骨粗鬆症のリスクを高めるため、閉経後より女性の有病率が高くなるわけです。加齢変化や女性ホルモンの低下ばかりでなく、内分泌疾患、糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、関節リウマチ、ステロイド薬やワーファリンなどの薬物の服用、アルコールの多飲も骨粗鬆症をもたらす原因として報告されています。
2008年東京医科大学の内科グループが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群50人で骨吸収マーカーの上昇を観察し、中等度から重度の睡眠時無呼吸症候群の40人のうち21人が睡眠時無呼吸の治療であるCPAP療法でマーカーが低下したことを世界で初めて報告し、睡眠時無呼吸症候群の患者さんに骨吸収の増加と骨形成の抑制を特徴とする異常な骨代謝が認められることを示しました。この報告以来、睡眠時無呼吸症候群と骨粗鬆症の関係が世界で注目されるようになりました。
2022年中国、広東医科大学から過去に報告された603論文をメタ解析し、閉塞性睡眠時無呼吸症候群は対照群と比較して骨粗鬆症の発生率が2.03倍高いことを報告し、2024年中国、四川大学によるメタ解析では睡眠時無呼吸症候群の症例は、腰椎と大腿骨頸部の骨密度が有意に低いことを報告しています。このように世界各国から、睡眠時無呼吸症候群と骨粗鬆症の関係が肯定的である報告が続いています。
では、なぜ睡眠時無呼吸症候群が骨粗鬆症を発症させるのでしょうか?その機序はまだ完全に解明されていません。現在までの研究では、睡眠時無呼吸による慢性間欠的低酸素症から炎症経路が刺激され炎症性物質の放出、血管内皮機能の障害、酸化ストレス、睡眠不足、レプチン感受性の低下などが正常な骨代謝を妨げるために骨粗鬆症が引き起こされると考えられています。
最近は睡眠時無呼吸症候群とビタミンDの関係が注目されています。ビタミンDは小腸からカルシウムの吸収を促進し、骨の形成をサポートする重要な栄養素です。ビタミンDは、食事からの摂取に加え、日光の暴露により皮膚で産生される脂溶性のステロイドホルモン前駆体で、肝臓及び腎臓で水酸化され安定な25(OH)ビタミンDに変換されます。25(OH)ビタミンDは生体内におけるビタミンDの主要な貯蔵形態であることから、全身のビタミンD状態を表す代謝物質として広く認められています。2025年イタリア、ミラノ大学から過去に報告された747論文をメタ解析し、睡眠時無呼吸症候群は健康な患者よりも25(OH)ビタミンDレベルが有意に低いことを報告しています。
睡眠時無呼吸症候群による炎症性物質の増加が、ビタミンDの合成を低下することがわかってきています。また、ビタミンDは脳幹に作用し睡眠制御に影響を与えることが示されています。さらに、ビタミンDが筋線維収縮の調節に関与することがわかっており、ビタミンD欠乏が睡眠時無呼吸に関与する可能性も報告されてきています。つまり、睡眠時無呼吸症候群とビタミンDは相互作用の関係であることが示唆されています。
2016年京都大学から、睡眠障害で受診し骨密度を測定できた234人を対象とした検討では、男性の睡眠時無呼吸症候群の重症例は睡眠時無呼吸のない人と比較して骨密度が有意に低下していたことを報告しています。
2024年ギリシャ、アテネ大学から、睡眠時無呼吸症候群と診断された262名の25(OH)ビタミンDレベルを睡眠時無呼吸の程度で比較し、軽中等度の睡眠時無呼吸と比較して重度の症例は25(OH)ビタミンDレベルが1/3低いことを示しています。2025年イタリア、ミラノ大学のメタ解析では、軽度睡眠時無呼吸症候群は健康な人と比較して、25(OH)ビタミンDレベルが統計的に有意差を認めなかったと報告しています。
つまり、いびき症状で骨粗鬆症となるわけではなく、重度な睡眠時無呼吸症候群となると骨粗鬆症を起こす危険性が高くなることがわかります。
2024年イタリア、ローマ・トルヴェルガータ大学病院から重度睡眠時無呼吸症候群60名を対象にCPAP治療12ヶ月後の骨密度の状態を観測したところ、椎骨の骨密度が増加しており、また血中ビタミンDやカルシウムの増加、副甲状腺ホルモンレベルの低下を有意に認めたと報告しています。睡眠時無呼吸症候群に伴う骨粗鬆症は、無呼吸の治療で骨粗鬆症が改善する可能性を示しています。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を90%以上持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。閉経をむかえた女性、60歳以上の男性で、健康診断で骨密度が低いことを指摘された方の中で、いびき症状がある場合は近くの医療機関にて睡眠時無呼吸の有無を検査することを勧めます。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。
適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。
いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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