喘息といびき
喘息は気管支喘息ともいわれているように、「気道の慢性炎症を本態とし、臨床症状として変動をもった気道狭窄(喘鳴(ぜんめい)、呼吸困難)や咳で特徴付けられる疾患」とガイドラインでは定義されています。
平成16~18年度の厚生労働省科学研究事業研究班における全国調査にて、成人(20~79歳)の喘鳴を持っている有症率は10.1%、医師の診断による喘息の有病率は4.2%と報告されています。つまり、日本での喘息の実際の有病率は4~10%と予測されます。ちなみに世界各国の有病率は1~18%と報告されています。
平成30年の人口動態統計では喘息死は1,617名であり、未だに多くの人が亡くなっている疾患です。喘息と異なり「せき喘息」と診断された方もいると思いますが、せき喘息は1970年代米国から提唱された概念であり、喘鳴を伴わない咳が8週間以上持続し、気管支拡張薬にて症状が改善する疾患です。
今回はこの喘息と睡眠時無呼吸症候群の関係についてお話しします。
1979年に米国コロラド州デンバーの病院で閉塞性睡眠時無呼吸症候群の男性が喘息重責発作を起こした症例報告をはじめとして、各国で睡眠時無呼吸症候群と喘息の関係について報告されています。1996年英国から2,661名を対象としたアンケート調査にて、喘息のある人はない人と比較して睡眠時無呼吸症状を3.7倍高く認め、性別、年齢、喫煙、肥満よりも睡眠時無呼吸症状の有無が、喘息の要因として最も強く認められたと報告しています。2009年サウジアラビアから、睡眠時無呼吸症候群と診断された606名のうち35.1%に喘息が認められたと報告されています。
このように、喘息と睡眠時無呼吸症候群とに関連があることが各国から報告されています。
直接的な要因と間接的な要因が現在までに指摘されています。 間接的な要因として、主に喫煙、肥満、胃食道逆流症、鼻閉があります。
● 喫煙
喫煙が直接的に喘息を発症するのかは現在も不明ですが、喘鳴症状を誘発させ、肺機能を低下させ、気道過敏性を亢進、喘息を重症化させる因子の1つです。同様に喫煙は、気道粘膜の炎症を起こし、慢性扁桃炎を起こし、気道が狭くさせることから、いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因の1つです。
● 肥満
肥満は、首回りに脂肪がつくことによって上気道が狭くなり、そこを空気が流れることによっていびき、閉塞性睡眠時無呼吸が生じます。また、内臓脂肪型肥満の場合は腹部に脂肪がたまることにより肺のふくらみを邪魔し睡眠時無呼吸症状を助長します。これは、胸郭コンプライアンスの低下、呼吸筋への負担の増加、気道抵抗の上昇など呼吸機能に影響を与え、喘息を悪化させる要因にもなります。また脂肪細胞は、レプチンというたんぱく質を分泌します。レプチンは食欲を抑制したり、体にたまったエネルギーを放出したりする作用がありますが、気道過敏性をあげ喘息症状を悪化させることも報告されています。
● 胃食道逆流症
胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease:GERD)は胃の内容物が食道へ逆流し、胃酸によって食道や咽頭の粘膜がただれてしまう疾患です。睡眠時無呼吸症候群の患者さんは胃食道逆流症(GERD)を20〜40%併発すると報告されています。上気道狭窄が気管内圧を低下し気管と隣同士である食道内への酸逆流を助長させるなどがその原因と報告されています。また、胃酸逆流が上気道粘膜を浮腫させ上気道狭窄を起こし、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を助長させることも報告されています。GERDは気道過敏性を上昇させたり、逆流した胃酸を誤嚥し気道粘膜の炎症を起こしたりして、喘息症状を誘発すると考えられています。また、喘息治療薬が胃酸分泌の亢進や下部食道括約筋の弛緩をおこし、GERDを起こすとも報告されています。
直接的な要因として、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんはノンレム睡眠ステージ2〜4で呼気時の気道抵抗が上昇することが米国バーモント大学の研究で示されていますが、呼気時の気道抵抗上昇は喘息症状を悪化させます。また無呼吸にて迷走神経が刺激され、気道平滑筋の収縮が起き、喘息を悪化させます。さらに、一時的な低酸素状態から急に酸素の状態が回復すると、活性酸素が発生し、活性酸素が気道の炎症を起こし、喘息を悪化させます。
これら様々な要因が絡み、喘息と睡眠時無呼吸症候群が併発しやすくなると考えられています。
2005年トルコでの7,469名の小学生のアンケート結果から、喘息がない人と比較して喘息がある人は、いびき症状を約3倍多く持っていたと報告しています。睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を90%以上持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。このようにいびきと睡眠時無呼吸症候群は強く関係しています。つまり前述のように、いびきと喘息がある場合は睡眠時無呼吸となっている可能性もあり注意が必要です。
いびき症状を持つ人の75%に鼻閉症状があると報告されています。狭くなった鼻を空気が通ることや、圧が強くなった吸気が鼻の後方にある軟口蓋にぶつかることでいびきの原因となります。
アレルギー性鼻炎は鼻閉の原因の代表的な疾患です。喘息もアレルギー性炎症の一つなので、喘息とアレルギー性鼻炎が併発していても容易に理解できますが、鼻炎により鼻の中で産生された炎症性物質が気管・気管支に入り炎症を起こすのも喘息を併発させる要因として考えられています。また、米国コロラド大学の研究では、いびき振動にて咽頭を慢性刺激すると気管支収縮の神経反射が亢進することが示されています。つまり、睡眠時無呼吸を伴っていなくてもるいびきが喘息を伴う可能性が示唆されています。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。
いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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