においといびき
においを感じる嗅覚(きゅうかく)は、視覚、聴覚、触覚、味覚とならぶ外界を感知する五感の一つです。においが鈍くなる嗅覚低下や全くにおわなくなる嗅覚脱失が生じると、単に食事がつまらなくなるだけではなく食欲低下となり、腐ったものや料理のこげているにおい、またはガス漏れを起こしているにおいなど危険な信号をとらえることもできません。においは、感情や記憶にも関与することも解明されており、嗅覚障害は決して放置して良いものではありません。今回は、いびきと嗅覚障害についてお話しします。
嗅覚障害の有病率は、欧州では10~46%と報告にバラツキがあり、米国では1~3%と報告され欧州と米国で差があります。女性の方が男性よりも約1.5倍有病率が高く、50歳代から徐々に嗅覚が低下し、年齢とともに悪化することも報告されています。
嗅覚は、その仕組みの一部を米国の科学者が解明し、2004年にノーベル医学生理学賞を受賞したほどで、その機序は未だに不明な部分が多いです。現在までに分かっている仕組みは、においのもと(分子)が呼吸などで鼻に入り、鼻の天井にある嗅細胞でにおいをとらえられます。約40万種類あるといわれているにおいの分子を1,000種類ほどの受容体でとらえ、嗅細胞が刺激されます。嗅細胞が刺激されて生じた電気信号は嗅神経を伝わり脳の一部である嗅球を介し、大脳へと伝わり私たちはにおいを感じることができます。
嗅覚障害は、においを感じるための経路のどの部分が障害されているのかで分類されています。においの分子が嗅細胞に到達しにくい気導性(きどうせい)嗅覚障害は、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などで生じます。嗅細胞と嗅神経が障害される嗅神経性嗅覚障害は、ウイルスや薬物、糖尿病や外傷などで生じます。嗅球を含めた脳の障害による中枢性(ちゅうすうせい)嗅覚障害は、脳腫瘍や脳梗塞、パーキンソン病やアルツハイマー病などで生じます。加齢や先天異常などはこれらが複合的に関与して嗅覚障害となる可能性があります。
2014年頃より睡眠時無呼吸症候群の患者さんの嗅覚障害が報告されるようになってきました。睡眠時無呼吸症候群の患者さんが嗅覚障害である有病率は、40~70%と報告によってバラツキがありますが、約2人に1人と高率であることが理解できると思います。なぜ、睡眠時無呼吸症候群に嗅覚障害が起きるのかは、まだはっきり解明されていませんが、いくつかの理由が考えられています。
まず、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは無呼吸のない人と比較して約4倍糖尿病となる確率が高くなることが米国ハーバード大学から報告されています。2019年米国ジョンズ・ホプキンズ大学によるメタ解析では、糖尿病の患者さんが嗅覚障害を持つ有病率は健常成人の約1.6倍高いことが示されています。睡眠時無呼吸症候群から糖尿病となり、嗅神経性嗅覚障害を持つ可能性があります。
2000年フランスにて、いびきで受診した約500名を対象とした検討では、睡眠時無呼吸を持っている人は無呼吸のない人と比較し、鼻閉のある割合が明らかに多いことが報告されています。つまり、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは気導性嗅覚障害を生じる可能性が高いことを示しています。
2018年にイタリアから鼻炎や外傷、糖尿病などの既往がない睡眠時無呼吸症候群の患者さん60名を無呼吸のない40名と比較し、嗅覚障害の有病率が約2倍高いことを報告しています。このことから、睡眠時無呼吸の患者さんは気導性嗅覚障害や糖尿病と関係なくても嗅覚障害を起こすことが理解できます。2017年韓国、2020年中国から血中酸素飽和度と嗅覚障害に負の相関関係を認めることが報告されました。睡眠時無呼吸症候群は気道が狭く酸素が取込みにくくなり、その苦しさから覚醒しまた気道が拡がり酸素を取り込みます。一時的な低酸素の状態から急に酸素の状態が回復すると、その環境変化から細胞は活性酸素を発生させます。活性酸素は、過剰に発生すると細胞を障害します。この活性酸素が嗅細胞の炎症をおこし、また栄養血管の炎症を起こすことで嗅神経や嗅覚中枢への血流低下から嗅神経性または中枢性嗅覚障害となる可能性が考えられています。実際に2017年ドイツから嗅覚障害のある睡眠時無呼吸症候群44名に対し無呼吸治療である持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)を行い嗅覚障害の改善が認められることを報告し、低酸素状態を解消すると嗅覚障害が改善すること示されました。
このように、睡眠時無呼吸症候群は様々な理由から嗅覚障害を起こすことが理解できたと思います。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を90%以上持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。このようにいびきと睡眠時無呼吸症候群は強く関係しています。2017年韓国建国大学病院でのいびきを主訴に受診した69名の検討では、いびきの回数や持続時間よりも、無呼吸の回数や血中酸素飽和度の方が嗅覚障害と負の相関関係を認めることを示しています。このことから、においがわかりにくくいびきのある場合は、睡眠時無呼吸症候群となっている可能性があり、放置しないで専門の医師に診察してもらうことを勧めます。
当院では、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っており、口蓋垂とその周辺の軟口蓋を切除し糸で縫い上げることで上気道を広くし、いびきや睡眠中の呼吸状態を改善します。BMIが30以上の肥満があり睡眠時無呼吸を伴っている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。体位性睡眠時無呼吸の場合はマウスピースを用いた治療を勧めます。CPAPやマウスピースの装用が困難であった方やいびきや睡眠時無呼吸の治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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