胆石症といびき
最近、健康診断などで行われる超音波検査の発達と普及により、胆石症と診断される人が増えています。日本における胆石保有者数は、厚生労働省から1979年に390万人と報告されていましたが、1993年には1,000万人を超えており10人に1人は胆石症と推定されています。今回は、胆石症といびきの関係をお話しします。
胆石症とは胆汁の流れる道に石ができる病気です。胆汁は肝臓で毎日1リットルほど作られる黄褐色の液体で、胆管を通り胆のうで濃縮され十二指腸に流れ出ます。
胆汁には「胆汁酸」「ビリルビン」「コレステロール」が含まれています。肝臓でコレステロールから生合成される胆汁酸が脂肪を乳化させることで、脂肪の消化に関わる膵液中のリパーゼの働きを助けます。
胆汁酸は小腸下部で90%以上吸収され、肝臓に戻ります。ビリルビンは赤血球の老廃物であり、脾臓と肝臓を経由して胆汁中に排泄され、体内から排泄されます。
胆石はその成分により、コレステロール胆石、ビリルビンを主成分とする色素胆石、そして稀な胆石に分類されます。コレステロール胆石は、胆汁中のコレステロールが増えすぎたり、胆嚢の収縮能が低下したりして発生すると考えられています。
ビリルビンを主成分とした結石の主な成因は胆道感染です。コレステロール胆石が胆石症全体の70%以上を占めていると報告されています。
胆石は見つかる場所によって、肝内結石、胆嚢結石、総胆管結石と診断されますが、80%以上が胆嚢結石です。
胆石症になっても、胆嚢結石の80%の人は、また総胆管結石の20-30%の人は自覚症状がありません。しかし急に悪化をすると、右上腹部に激痛が起こり、悪心、嘔吐、発熱、黄疸などを生じます。胆嚢結石の患者さんでは年に1-2%の重篤な症状を発症することが報告されています。また、その因果関係がいまだに不明ですが、胆嚢癌の70-90%と高率に胆嚢結石を認めることが報告されています。つまり、健康診断で胆石が見つかった場合は必ず専門の医師の診察を受け、厳重な経過観察が必要であることがわかります。
胆囊結石の危険因子は、古くから5F(forty:年齢、female:女性、fatty:肥満、fair:白人、fertile:妊娠、出産)と言われてきました。現在までの研究で、インスリン抵抗性を含む肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病などの代謝疾患、遺伝子、腸内細菌叢、消化管手術歴、ダイエットなどもコレステロール胆石の危険因子として報告されています。
睡眠時無呼吸症候群が胆石症の危険因子として最近報告されています。 睡眠時無呼吸症候群は加齢とともに有病率が高くなることは示されており、60歳以上では50%の人に睡眠時無呼吸を認めるとの報告もあります。
睡眠時無呼吸症を持つ人の70%が肥満であり、逆に肥満を持つ人の約40%に閉睡眠時無呼吸症を認めるとアメリカから報告されています。ハーバード大学による研究では、睡眠時無呼吸症を持つ人は、持たない人に比べ糖尿病となる確率が約4倍高いと報告しています。つまり、胆石症の危険因子を睡眠時無呼吸症候群の患者さんが同様に持っているために、睡眠時無呼吸症候群に胆石症を認めやすいとも考えられます。
2019年台湾の中国医薬大学による20歳以上の睡眠時無呼吸症候群約3,800人と睡眠時無呼吸症候群ではない約3,800人を比較した研究にて、睡眠時無呼吸のある群は、年齢、性別、脂質異常症、糖尿病、高血圧などを調整した後でも、睡眠時無呼吸のない群より胆石の有病率が1.53倍高いことを報告しています。
2024年中国の北京協和医学院による世界のゲノムワイド関連解析のデータをもとにメンデルランダム化解析を行ったところ、睡眠時無呼吸症候群と胆管結石、胆嚢結石のリスク増加との間に因果関係を認めると報告しています。
ゲノムワイド関連解析とは、特定の疾患などに関連する遺伝子を見つける方法で、睡眠時無呼吸症候群や胆石症を持っている人の遺伝子を疾患のない人の遺伝子と比較して特定していきます。メンデルランダム化解析とは、その遺伝子をもとに疾患と疾患の因果関係を調べる方法です。
つまり、メンデルランダム化解析で因果関係があったということは、睡眠時無呼吸症候群は肥満や糖尿病と関係なく、胆石症を合併する可能性が高いことを示しています。
では、なぜ睡眠時無呼吸症候群が胆石症を合併するのでしょうか?
その機序はいくつか推測されています。睡眠時無呼吸症候群は睡眠中の呼吸停止や低換気を繰り返す、慢性的な断続的な低酸素症が特徴です。
これにより交感神経刺激、酸化ストレス、炎症性サイトカイン分泌亢進が生じ、インスリン抵抗性が生じます。インスリン抵抗性とは、膵臓からインスリンが血中に分泌されているにもかかわらず、標的臓器のインスリンに対する感受性が低下し、その作用が鈍くなっている状態を意味しています。
そのために、膵臓からさらにインスリンが分泌され、高インスリン血症となります。高インスリン血症が肝臓にコレステロール取り込みを促進させ、肝臓内のコレステロール量を増やします。また、交感神経の興奮は胆嚢収縮能を低下させ、胆汁の流れが悪くなります。さらに、低酸素が腸内細菌叢に変化を与えることも最近わかってきました。
これらが原因となり胆石が形成されると考えられています。
現在までに、単純いびき症が胆石症の危険因子であるという報告はありません。しかし、睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を90%以上持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。
このようにいびきと睡眠時無呼吸症候群は強く関係しています。胆石症の診断を受け、慢性的ないびき症状がある場合、睡眠時無呼吸症候群の可能性もあり、近医にて睡眠時無呼吸の有無を調べてもらうことを勧めます。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません
肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。
いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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