ねぞうといびき
眠っているときの恰好を寝相と言いますが、その寝姿は人によって様々です。2005年に日本で報告された研究では、寝るとき(入眠時)の姿勢は約半数が天井を向いて寝る仰臥位であり、4割が横を向いて寝る側臥位、40人に1人ほどにうつ伏せで寝る人がいるとしています。しかし、眠っている間ずっと同じ姿勢ではなく1時間当たり平均2回ほど寝返りをうつといわれています。
いびきが寝相に関係することは誰しも予想がつきます。隣で寝ている人がいびきでうるさいので体を突っつくと、眠っている人が寝返りをうちいびきの改善を経験したことがあると思います。アメリカ独立戦争(1775~1783年)、第一次世界大戦(1914~1918)年に兵士がリュックサックを背負いながら寝ることにより仰臥位が防止され、いびきを予防でき、いびきによって敵に陣地が知られないようにしたとの記載がされています。1907年に背中にテニスボールをつけていびきを予防した報告や、1984年に夫のTシャツの背中にポケットを作り、プラスチックボールをその中に入れたら夫が仰臥位で眠らなくなり睡眠時無呼吸が改善したことを報告した妻の手紙が世界的に有名な米国医学雑誌Chestに紹介されています。このように、仰臥位睡眠(天井を向いて眠る)がいびきや睡眠時無呼吸を起こす寝相であることがわかります。
呼吸の通り道が狭くて無呼吸となる閉塞性睡眠時無呼吸症は2%~25%の罹患率と報告されています。そして、その50~60%が側臥位などの体位をとることによって無呼吸が改善するといわれています。また、体位によって無呼吸が改善する患者さんは全体的に無呼吸の重症度が低いことも報告されています。このように睡眠時無呼吸症も寝相に大きく関係しており、仰臥位睡眠で悪化することがわかっています。
なぜ仰臥位睡眠がいびきや睡眠時無呼吸を悪化させるのでしょうか?
その理由はいくつか指摘されています。重力によって口蓋垂(のどちんこ)、軟口蓋(口蓋垂を支える上あご)、舌、喉頭蓋(肺の入り口)がのどの後壁側に落ち、空気の通り道(気道)を塞いでしまい、いびきや無呼吸が生じます。また、横になると鼻腔への血流量が増加し、鼻腔粘膜がうっ血し鼻腔が10~25%ほど狭くなることが報告されています。内臓脂肪型肥満の人が仰臥位になると、腹部の脂肪が肺を圧迫することにより肺のふくらみを邪魔したり、気管を圧迫したりして空気の通り道を狭くさせます。このように、仰臥位になると気道が狭くなりやすく、いびきや睡眠時無呼吸が生じてくるわけです。
普段はいびきをかかない人が飲酒後にいびきをかく場合、寝相を変えてあげることによって症状の改善を認めることが多くあります。飲酒は、鼻腔粘膜のむくみから鼻呼吸がしづらくなり、また舌を支えている筋肉をゆるませ舌が落ち込みやすくなることでいびきや無呼吸が生じます。体を横に向ける側臥位は重力による舌の落ち込みを減らし症状が改善します。このような側臥位を強制的にさせる方法はいくつか示されています。先に述べましたが、背中にポケットを作りプラスチックボールやテニスボールを入れたり、サメひれ様の形が背中についているベストを着たり、スポンジの入ったベルトをして寝ることで仰臥位を予防しいびきや睡眠時無呼吸の症状に効果のあったことは過去に報告されています。また。背中に三角枕を置いて効果のあった報告もあります。しかし、やはり寝にくいことから7~8割の人が症状改善のないままにやめてしまうことも観察されています。睡眠時無呼吸症の場合、持続陽圧呼吸療法(CPAP)の治療を受けることがあります。側臥位で症状が改善する体位性睡眠時無呼吸症の場合では、常に一定の風圧がかけられる定圧式CPAPだと苦しくなり外してしまうことが多く、自動圧調整式CPAPの装用が勧められています。
マウスピース(スリープスプリント)を用いて、いびきや睡眠時無呼吸を防止する治療があります。これはマウスピースによって舌が収まっている下あごを数ミリ突き出し固定させ、仰臥位睡眠中に舌が落ち込まないようにする治療です。マウスピース治療は体位性睡眠時無呼吸症に対してとても効果を発揮することがスウェーデンから報告されています。
いびき、睡眠時無呼吸症に対する外科治療として一般的に行われている口蓋垂軟口蓋形成術は、寝相に依存しないいびきや睡眠時無呼吸症に対して効果が高いことが米国や韓国から報告されています。しかし体位性睡眠時無呼吸症でも、手術後に側臥位にすると手術前と比較して無呼吸指数が大きく減少することも報告されています。このことからも、寝相によって生じるいびきや睡眠時無呼吸症の原因として舌や喉頭蓋の落ち込みが大きく関与していることが予想されます。
当院では、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っており、口蓋垂とその周辺の軟口蓋を切除し、糸で縫い上げることで上気道を広くし睡眠中の呼吸状態を改善します。BMIが30以上の肥満があり睡眠時無呼吸を伴っている場合は、まず体重の減量とCPAP治療を勧めます。体位性睡眠時無呼吸の場合はマウスピースを用いた治療を勧めます。CPAPやマウスピースの装用が困難であった方やいびきや睡眠時無呼吸の治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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