交通事故といびき
自動車は人や物を運ぶために発明され、旅客交通や物流での利用が進み、今では生活や経済活動に不可欠な存在です。
自動車の誕生は、1769年フランスでニコラ・ジョゼフ・キュニョーにより蒸気を利用して走る自動車が発明されました。それから100年以上経過した1886年ドイツでゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツがそれぞれガソリン自動車を開発しました。その12年後、1898年日本に初めて海外から自動車が輸入されました。
その7年後、1905年大阪で5歳の子供が自動車に轢(ひ)かれて死亡したのが日本における最初の自動車死亡事故と言われています。その65年後、1970年に道路交通事故(人身事故)は負傷者数98万1,096人、死者数1万6,765人となり、交通戦争の犠牲者はピークとなります。それから約50年経過した2019年における道路交通事故負傷者数は46万1,775人と1970年の47%、死者数3,215人と19%まで減少しました。
交通事故の減少した理由は、①シートベルト着用者率の向上、②事故直前の車両速度の低下(取り締まり、法令強化、警告装置の充実)、③飲酒運転などの悪質・危険性の高い事故の減少、④歩行者の法令遵守、⑤自動車技術の進歩、などの複合的な効果によるものと考えられています。
交通事故は、①運転者、②車両、③走行環境、④管理の4要素のバランスが崩れて発生すると最近では考えられています。②〜④は技術進歩や法令強化などで整ってきました。しかし、あらゆる条件下ですべての操作を機械が行う完全自動運転が開発されるまでは、操作をするのが人間である限りヒューマンエラーにて発生する交通事故を完全に防止するのは困難と考えられています。
2008年国土交通省の検討会では、ドライバーの65%が運転中に眠気で危険を感じたことがあると示しています。海外の報告では、商業用トラックの交通事故のうち20〜30%が居眠り運転であると報告しています。2016年の公益社団法人トラック協会のまとめによるとトラックの追突事故での死亡事故原因として居眠り運転が約半分を占めていると推定しています。
このように、ヒューマンエラーの中でも居眠り運転や過労運転は重大な事故につながり、頻度も少なくないことがわかります。そのために、居眠り運転や過労運転には罰則が設けられています。
居眠り運転の罰則は、道路交通法70条の安全運転義務に違反している場合に違反点数2点、反則金は大型車1万2千円、普通自動車9千円を収めなければなりません。居眠り運転よりも過労運転の方が重い責任となります。道路交通法66条では、「何人も過労、病気、薬物の影響その他の理由によって、正常な運転ができないおそれがある状態で、車両を運転してはならない」と規定されています。過労運転の禁止に違反した場合は、違反点数が25点で免許取り消しとなり、罰則としては3年以下の懲役または50万円以下の罰金を科されます。
居眠り運転や過労運転は様々な要因で生じるとされています。体力や視力、体調、運転の熟練程度などの運転者適性や天候や運転時間、車の状態などの運転環境などがその要因となりますが、やはり十分な休息や睡眠が重要な要因と考えられています。2018年国土交通省による自動車運送事業者への指導監督マニュアルを「良い睡眠を取ることが事故防止には不可欠である」と加え改訂してところかもその重要性がわかります。
十分な睡眠時間をとっているにも関わらず、眠気を起こす原因はいろいろあります。
その中でも睡眠時無呼吸症候群は日中眠気を起こす代表的な疾患です。1994年米国スタンフォード大学が長距離トラック運転手90名を対象に検討し、睡眠呼吸障害がある運転手は障害のない運転手と比較して2倍事故を起こす可能性が高いことを示しています。
睡眠呼吸障害とは、睡眠中に異常な呼吸を示す病気の総称ですが、その代表的な疾患が睡眠時無呼吸症候群です。
2004年オーストラリア、メルボルン大学が商品輸送車の運転手161名に睡眠検査を行い、約60%に睡眠呼吸障害が認められ、その3人に1人が閉塞性睡眠時無呼吸症候群であったと報告しています。睡眠呼吸障害の有病率は一般的に2%以上であり、中年男性の4%に認められると報告されています。
つまり、この報告では一般より睡眠呼吸障害の割合がとても多いことがわかります。その理由として、商品輸送車の運転手は中年男性が多く、肥満の割合が多いことがその要因と研究者は推論しています。肥満は強く睡眠時無呼吸症候群と関係することが過去の報告からわかっています。
1999年スペインから職業運転手とは関係なく、交通事故で病院を受診した約100名の患者さんを検討したところ、睡眠時無呼吸症候群が認められた人の交通事故を起こす確率は約6倍高いことを示しています。2009年米国ケンタッキー大学グループの過去に報告された論文に対するメタ解析では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を持っている人の交通事故を起こす確率は無呼吸のない人の2.43倍と報告しています。
つまり、職業運転手ではなくても睡眠時無呼吸症候群があると交通事故を起こす確率が高くなることがわかります。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびきを90%以上持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。このようにいびきと睡眠時無呼吸症候群は強く関係しています。いびきを指摘されていて、運転中に眠気を感じたことのある方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があり放置しないで専門の医師に診察してもらうことを勧めます。ただ、先に示したケンタッキー大学のメタ解析にて、睡眠時無呼吸症候群の重症度と交通事故を起こす確率には明らかな比例関係が認められなかったと報告しています。メルボルン大学の報告でも、日中の眠気に焦点を置いたアンケート調査では、眠気の強い人の交通事故を起こす確率が通常より1.3倍高くなることを示しています。やはり、運転中の「眠気」が交通事故のポイントであることを意味しています。2000年米国ボストン大学の5,777名を対象とした研究では、いびきは呼吸障害指数とは関係なく、日中の眠気に関与していることが示されています。つまり、いびき単独でも日中の眠気を起こすので、気をつけなくてはいけません。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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