遺伝といびき
「いびき」で当院を受診される患者さんの中に「親もいびきをかいていました」と言われる方が意外と多く認められます。高血圧や糖尿病などの病気になりやすい体質は親から遺伝することがわかっていますが、いびきも遺伝する「遺伝病」なのでしょうか?今回はいびきの遺伝についてお話しします。
遺伝病は、遺伝情報を担う染色体(せんしょくたい)や遺伝子の変化によって起きる病気を指します。
中学校の理科で学ぶ遺伝についておさらいします。私たち人間の体は約37兆個の細胞からできています。各細胞の中心に核があり、その中に両親から受け継いだ23組46本の染色体が存在します。その染色体1本にDNA1本がおりたためられています。DNAは2本の鎖がらせん階段状に重なった構造になっており、その1本の鎖は4種類の塩基(アデニン、チミン、シトシン、グアニン)、デオキシリボース、リン酸という物質でできています。この塩基の配列順序(文字列)が遺伝情報となります。
DNAの文字列に示された遺伝情報全てを「ゲノム」と呼び、ヒトゲノムは32億文字列あると報告されています。この32億文字列の中で、タンパク質の設計図となる文字列が「遺伝子」と呼ばれ、約23,000個の遺伝子が確認されています。
つまり全文字列の1.5%しか遺伝情報として使われていないことを意味します。37兆個の細胞1つ1つが同じ染色体、遺伝子を持っていますが、内臓、筋肉、神経、骨などそれぞれの組織になるのはそれぞれの細胞が「分化」するからです。この分化の仕組みを現在世界中で研究されています。
遺伝病には、1つの遺伝子のわずかな変化だけで病気を引き起こす「単一遺伝子疾患」から、複数の遺伝子が関係し、さらに生活などの「環境要因」も加わり病気を起こす「多因子疾患」など多岐にわたります。
1988年フィンランドのヘルシンキ大学の研究グループによる双子4,000名以上を対象とした検討で、二卵性より一卵性の方が双子のいびき一致率が高く、いびきに遺伝が関係することがわかってきました。その後、1995年イタリア、ミラノ大学で776組の双子を対象とした検討、同年デンマークのグロストルプ大学病院での3,387名を対象とした遺伝子マーカーの検討、2001年米国の研究機関SRIインターナショナルによる1,560組の双子を対象とした検討などから、習慣的ないびきの遺伝率が18〜28%と考えられています。つまり慢性いびき症は、その1/4-1/5に遺伝子が関与している「多因子疾患」であることを意味しています。
肥満は、首周りに脂肪がつくことにより呼吸の通り道が圧迫を受け狭くなり、いびきの原因となります。両親が肥満の場合に子供が肥満になる確率は80%と報告されており、遺伝的要因が指摘されています。現在世界中で見つかっている肥満に関係する遺伝子は120以上あります。
顎(あご)が小さいと舌が口の中に収まりきらずにのどに落ち込み、いびきをかきやすくなります。顔の骨格も親に似ることから遺伝が関与しています。現在世界中で見つかっている顔面の形態に関与する遺伝子は200以上あります。
いびきをかく人の75%に鼻閉症状があると報告されています。狭くなった鼻を空気が通りいびきとなり、圧が強くなった吸気が鼻の後方にある軟口蓋にぶつかることもいびきの原因となります。また、口呼吸に変わることから軟口蓋や舌が振動しいびきとなります。アレルギー性鼻炎は鼻閉を起こす主な疾患ですが、遺伝の関与が報告されています。現在世界中で見つかっているアレルギー性鼻炎に関係する遺伝子は30以上あります。
1978年米国ハーバード大学から1家族3世代にわたって睡眠時無呼吸症候群を認めた報告が、遺伝性を訴えた初の論文です。睡眠時無呼吸症候群の患者さんの90~98%にいびき症状を認め、いびきが遺伝子に関与しているので、睡眠時無呼吸症候群に遺伝的素因があることは当然とも言えます。しかし、その機序はいびきほど簡単ではありません。
睡眠時無呼吸症候群は気道が狭い要因ばかりではなく、気道の構造を支える筋肉(上気道開大筋)や神経の障害される要因、呼吸を調節している脳が不安定な要因、脳が睡眠から覚醒しやすい要因など複雑に混在して生じているからです。これら各要因が、どの程度の遺伝的素因を示すのかは現在不明です。今後解明されてくることが期待されます。
今までの報告から睡眠時無呼吸症候群の遺伝率は40%と考えられています。つまり、慢性いびき症よりも睡眠時無呼吸症候群の方が遺伝に関係している確率が高いことを示しています。親が睡眠時無呼吸症候群と診断されていて、自分がいびきの指摘や日中眠気の自覚がある場合は、一度専門の医師に診てもらうことを勧めます。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。 いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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