脂質異常症といびき
脂質は三大栄養素の中で最も高いエネルギーを得ることができる重要なエネルギー源であり、ホルモンや細胞膜、核膜を構成したり、臓器を保護したり、脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・E・K)の吸収を促すなど、いろいろと重要な役割を担っています。
しかし、脂質の摂り過ぎは肥満などの原因になるため注意が必要です。血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を、脂質異常症といいます。
脂質の異常には、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度異常があります。脂質異常症は従来「高脂血症」と呼ばれていましたが、善玉であるHDLコレステロールのことを考慮し、2007年日本動脈硬化学会は「脂質異常症」と名称変更しました。
脂質異常症の診断は、LDLコレステロール:140mg/dL以上、トリグリセライド:空腹時150mg/dL以上、非空腹時175mg/dL以上、Non-HDLコレステロール(総コレステロール-HDLコレステロール):170mg/dL以上、HDLコレステロール40mg/dL未満を基準とします。脂質異常症患者数は1999年の約110万人から 2017年には約220 万人と倍増し、2019年には20歳以上で総コレステロールが240mg/dL以上(基準値120-220)の割合は男性の8人に1人、女性の5人に1人に認めると厚生労働省が報告しています。
脂質異常症は日本人の死因の約25%を占める動脈硬化性疾患の主要なリスク因子の一つですので、放置していて良いものではありません。
脂質異常症の病因は大きく2つに分けられます。原発性(遺伝性)と続発性(二次性)です。
脂質異常症全体で遺伝性が10%、糖尿病、甲状腺や副腎などの内分泌疾患、肝疾患、腎疾患、薬剤、アルコール摂取など原因の判明している続発性が30-40%と報告されています。
つまり、脂質異常症の多くは原因が不明ですが、体を動かさない生活で総カロリー、飽和脂肪、コレステロールなどを過剰に摂取する生活習慣による続発性脂質異常症が大きく割合を占めていると考えられています。
1980年代より虚血性心疾患、心不全などの循環器疾患がいびきや睡眠時無呼吸症候群と関係のあることが報告されています。動脈硬化性疾患は高血圧、脂質異常症、喫煙、糖尿病が4大危険因子と言われています。睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約50%に高血圧を認め、高血圧患者の30%以上に睡眠時無呼吸症候群を認めると報告されています。
また、睡眠時無呼吸症を持つ人は、持たない人に比べ糖尿病となる確率が約4倍高いと報告されています。つまり、睡眠時無呼吸症候群は高血圧や糖尿病を合併しやすいので、循環器疾患を起こしやすいことがわかります。
2014年の米国ロザリンド・フランクリン大学による過去に報告された96論文のメタ解析にて、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは脂質異常症の傾向があることを示しました。
睡眠時無呼吸症を持つ人の70%が肥満であり、逆に肥満を持つ人の約40%に閉睡眠時無呼吸症を認めることが報告されています。つまり、肥満の人は睡眠時無呼吸症候群になりやすいため、睡眠時無呼吸症候群に脂質異常症を認めやすいとも言えます。
しかし、2023年トルコのエーゲ大学の研究グループによる睡眠呼吸検査を受け、糖尿病、肥満を認めない882名を対象とした検討にて、睡眠時無呼吸症候群の診断された人は睡眠時無呼吸を認めない人と比較して、総コレステロール、LDLコレステロール、トリグリセライド値が有意に高いことを報告しています。
これは、糖尿病や肥満を合併していなくても睡眠時無呼吸症候群が脂質異常症を起こす可能性を指摘しています。
では、睡眠時無呼吸症候群がなぜ脂質異常症を起こすのでしょうか?さまざまな動物実験からその機序が解明されつつあります。
睡眠時無呼吸症候群は睡眠中の呼吸停止や低換気を繰り返す、慢性的な断続的な低酸素症が特徴です。この慢性的断続的低酸素症により肝臓でコレステロールの合成制御に関わる遺伝子の発現を制御するタンパク質(ステロール調節配列結合蛋白-1)が活性化され、トリグリセライドの量が増えます。また、慢性的断続的低酸素症は交感神経緊張が増加し、これにより脂肪細胞に存在する酵素であるホルモン感受性リパーゼが活性化し脂肪組織からトリグリセライドが血中に放出されます。さらに、交感神経緊張により各臓器にあるリポ蛋白リパーゼの活性が低下します。リポ蛋白リパーゼは血中のトリグリセライドを分解して吸収するための酵素です。
つまり、リポ蛋白リパーゼの活性が低下すると、血中のLDLコレステロールが上昇し、HDLコレステロールが低下します。
これらの機序が複合的に関与して、睡眠時無呼吸症候群の患者さんに脂質異常症が起こると考えられています。
2010年台湾の長庚大学による睡眠時無呼吸症候群236名を対象とした研究では、単純いびき症と比較して高トリグリセライド血症の有病率が2.3倍高く認めたと報告しています。
2018年トルコのエーゲ大学の研究グループによるヨーロッパとイスラエルの20カ国の睡眠センター30施設、約8,600名の解析にて、トリグリセライドとLDLコレステロールの血中濃度が無呼吸指数に比例していたと報告しています。
2022年中国、汕頭大学医学院による過去に報告された6,527論文のメタ解析にて、無呼吸の治療である持続陽圧呼吸療法(CPAP)が睡眠時無呼吸症候群の成人の総コレステロール値を減少させることを示しています。
つまり、脂質異常症は睡眠時無呼吸との関係が認められていますが、いびき症状が直接的に脂質異常を起こすわけではなさそうです。しかし、睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を90%以上持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。
このようにいびきと睡眠時無呼吸症候群は強く関係しています。脂質異常症と診断を受け、いびきを指摘されている場合は、近医にて睡眠時無呼吸の有無を調べてもらうことを勧めます。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。
肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。
いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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