パートナーといびき
いびきの頻度は16〜89%と報告によってばらつきがあります。
2002年英国からの報告では20〜30歳代の約30%、40〜50歳代の約50%、60〜70歳代の人の約40%にいびきを持っているとしています。つまり、いびきは決して珍しい症状ではありません。
いびきは睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状であるために注意が必要ですが、無呼吸を伴っていない「いびき」が一番問題となるのは、「いびきで他人の睡眠を障害させる」または「他人からいびきを指摘され気になってしまった」ということです。
当クリニックをパートナーと一緒に来院される患者さんの中には、受診する患者さんにいびきの自覚があまりなく、パートナーの方が「いびきがうるさく、眠れないのでどうにかしてほしい」と訴え、連れてこられるように受診される場合があります。実際にベッドパートナー(就寝時にそばにいる人)の存在の有無によって、いびきの頻度は異なります。
1991年オックスフォード大学の研究グループが35〜65歳の男性1,001名を対象とした調査では、ベッドパートナーのいる人にいびきの頻度は23%、いない人は10%とパートナーがいない人の方が頻度の少ないことを報告しています。
これは、「いびき」は自覚するよりも他人から指摘されて気がつく場合が多いことを示しています。今回は、いびきがベッドパートにどの様な影響を与えるのかを解説します。
いびきがパートナーにどのくらい迷惑をかけているのかお話しする前に、まず睡眠の基礎知識を簡単にお話しします。
ヒトの睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠という2種類の睡眠パターンがあることが脳波からわかっています。レムとはまぶたを閉じている下で目がキョロキョロと動くことをいいます。つまり目がキョロキョロ動きながら寝ているレム睡眠とキョロキョロと動かないノンレム睡眠があるわけです。
ノンレム睡眠は大脳を休ませ脳を回復させる眠りであり、レム睡眠はノンレム睡眠の状態から目覚めさせる眠りです。夢はレム睡眠中にみます。ちなみにレム睡眠中は体はぐったりしているのの脳は覚醒に近い状態なので、俗にいう「金縛り」はレム睡眠中になります。ヒトの睡眠はまずノンレム睡眠から始まります。
ノンレム睡眠は浅い眠りから深い眠りまで4段階に分かれています。ノンレム睡眠の後にレム睡眠となります。常にノンレム睡眠のステージ4までなりレム睡眠となるわけではなく、ステージ2や3からレム睡眠となることもあります。このノンレム睡眠とレム睡眠のパターンを約90分周期で繰り返して一晩の睡眠を構成しています。
睡眠の前半ではノンレム睡眠の深い睡眠が出現しやすく、睡眠の後半では浅い睡眠が多くなります。
睡眠の浅いノンレム睡眠ステージ1、2や脳が覚醒に近いレム睡眠中は、外界からの音を感じやすい状態です。外敵に襲われやすい野生の草食動物は浅い睡眠をとり、常に外界の音を感じるようになっているのもうなずけます。しかし、ノンレム睡眠のステージ3、4の深い睡眠(徐波睡眠ともいいます)となると大きな音でないと覚醒しません。このことから、ベッドパートナーの睡眠が浅い場合はいびきを感じやすく、いびきによって睡眠が障害される可能性がでてきます。
つまり、ベッドパートナー自身の問題で、いびきを感じやすくなることもあるわけです。例えば、パートナーにストレスがあり、自律神経の交感神経が興奮している状態であると睡眠が浅くなったり眠りにくくなったりして、相手のいびき音を聞いてしまうタイミングが増えます。また、子育てで夜間に起きる回数が増えても、加齢などで夜間にトイレに行く回数が増えても、いびきを聞くタイミングが増えます。
つまり、以前はいびきを指摘されていなかったのに、最近急にいびきをパートナーから言われる回数が増えた場合は、本人のいびきが増悪したばかりでなく、パートナーがいびきを聞くタイミング増えている可能性もあるのです。では、寝入っているベッドパートナーにいびき音が直接的に影響を与えるのでしょうか?
ヨーロッパ世界保健機構が2009年に報告したものによると、寝室では騒音レベルが40デシベル以上になると健康に悪影響を及ぼすとしています。デシベルは音の大きさを示す単位です。1999年米国ミネソタ大学の研究ではいびきを持つ1,138名のいびき音量を測定したら、平均46.2デシベルであったと報告しています。
また、睡眠時無呼吸を持つ人のいびき音は無呼吸を持っていない人のいびき音と比べて平均5デシベル大きいとも報告しています。1986〜87年のスェーデンの研究では、寝ている人に45デシベルの音量を聞かせるとレム睡眠の減少が認められ、55デシベルの音を聞かせると多くの人が目を覚ますと報告しています。しかも、ジー、ジー、ジーのような間欠音だと45デシベルでステージ3、4の深い睡眠であっても目を覚ます確率が高くなることも示しています。
2023年オランダのアムステルダム自由大学での研究では不規則な音量や不規則な間隔のいびきはより不快感を生むことを報告しています。
2006年モンテネグロでの検討では65デシベルの音量では高率に睡眠障害が起きると報告しています。50デシベルとは家庭用クーラーの室外機の出す音の大きさです。また60デシベルはトイレの洗浄音と同じ大きさです。
パートナーのいびき音が大きいのは睡眠時無呼吸症候群を持っている可能性が高くなり、医療機関の受診を勧めましょう。
いびき音がベッドパートナーの睡眠を障害させることが理解できたと思います。
慢性的に睡眠が障害されると、日中の眠気、注意力や記憶力の低下が生じ仕事上のミスや事故が起きやすくなります。イライラや疲労感が出やすく、うつ病となってしまうことも報告されています。さらにホルモンのバランスを崩し、肥満や糖尿病、高血圧などを起こしやすくさせ、心臓病や脳卒中などパートナーの生命にも影響を与えることとなります。パートナーが睡眠障害を起こさなくても、50デシベルの騒音を慢性的に聞かされると、ストレスホルモンレベルが上がり、血圧上昇、心拍数増加を起こし、心筋梗塞や脳梗塞、うつ病の有病率が高くなることが報告されています。また、繰り返すいびき音を聞いていることによりベッドパートナーが難聴となることも報告されています。
これらのことから、ベッドパートナーとの関係が悪くなり、夫婦の場合に離婚まで至った報告があります。パートナーがいびきについて不平を言う回数が増えてきたら、決して放置せず一度その原因を医療機関で調べてもらうことをお勧めします。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。
肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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