いびきの薬物療法
いびきは睡眠中に、鼻やのどの狭い部分に空気がぶつかり、組織が振動しておこる異常な呼吸音(特に息を吸うとき)のことです。鼻やのどが狭くなる病気、例えば肥満、鼻炎、扁桃炎、甲状腺疾患、顔面奇形などでいびきがおきている場合は、それに対する治療がいびき治療の基本方針です。いびき治療というと、手術やマウスピース、睡眠時無呼吸をともなっている場合は持続陽圧呼吸療法(CPAP)などがすぐに頭に浮かぶと思います。高度な無呼吸がある場合はCPAPが第一選択ですが、無呼吸がない場合にはこれら治療は侵襲的で不快をともなうため、治療を受けることに躊躇しがちです。しかし、手術以外にも肥満を解消したり枕を変えたりすることによっていびきを改善することができます。タバコや酒の量を少なくすることでいびきを減らすこともできます。また、いびきを予防する運動療法も報告されています。では、いびきに効く薬はあるのでしょうか?そんな薬があったら、気軽に医者にかかることもできると思います。甲状腺の疾患や扁桃炎、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎の場合は、それぞれの治療薬は存在します。今回は、これら病気を持たないで「いびき」がある場合に薬の効果があるのかを示します。
最近はインターネットでもいびき防止用のスプレーが販売されています。効能としては、その成分によって鼻閉を改善したり、のどの炎症を抑えたり、オイルによって軟口蓋や舌の動きを潤滑にしていびきを減少させるものと考えられています。世界中にいろいろな製品があり、医学的な検討も報告されています。2004年英国のランダム二重盲検査では、14日間オイルタイプのものを使用した群と比較して、使用していない群よりも明らかにいびきの軽減を認めたことを報告しています。同年アメリカでの検討では、男性に効果を認めるも女性には効果がなかったと報告しています。2001年スウェーデンのランダム二重盲試験ではいびきへの効果が認められていません。このように、その効果は報告によって様々であり、その研究方法や評価方法も様々です。オイルスプレー療法がいびき治療に効果があるのかは更なる検討が必要と考えられています。
いびき症状を持つ人の75%に鼻閉があると報告されています。また横になると鼻粘膜がうっ血し10~25%ほど鼻腔が狭くなることも報告されています。このように鼻閉はいびきを起こす要因の1つです。その鼻閉を改善させるものとして、内服薬や点鼻薬があります。内服薬よりも点鼻薬の方が、鼻閉を手っ取り早く改善させます。特に血管収縮薬は強力に鼻閉を改善させます。市販の点鼻薬にもその成分が含まれています。2006年チリからの報告で点鼻薬を使用している群の方が、使用していない群に比べていびきが改善したことを報告しています。しかし、血管収縮薬は効能時間が数時間であること、また副作用として血管収縮薬は耐性を生むために、毎日使用していると効果が少なくなり長期投与による薬剤性鼻炎となる危険性があります。
≫ 鼻閉といびきアレルギー性鼻炎の治療薬としてステロイドが配合されている点鼻薬があります。炎症を抑えるステロイドが鼻粘膜の炎症を改善させアレルギー性鼻炎を改善させます。鼻粘膜の浮腫を改善させるために鼻閉を改善させるばかりでなく、扁桃腺の炎症やのどの粘膜の炎症も改善させることから上気道(鼻やのどの空間)を拡げ、いびき治療に注目されています。2015年ギリシャのランダム試験ではいびきの改善を認めています。しかし、ステロイド点鼻薬も長期に使用すると副作用があり、また使用を中止しても持続的にいびき症状が改善するのか更なる検討が必要です。
睡眠中に上気道が狭くなるのは誰にでもおきます。これは上気道の空間を保つ筋肉の緊張が低下するためです。この筋肉の緊張を指令しているのが脳であり、睡眠により脳の活動が低下するために筋緊張が低下し、上気道が狭くなります。この一連の指令系統にセロトニンという物質が関与しています。このセロトニン作動能力を高めるセロトニン作動性薬をいびき治療として検討した研究が1993年カナダから報告されました。その後の動物実験や人を対象とした研究で、効果が少なく、副作用が強いために現在は注目されていません。
呼吸を管理している脳内の呼吸中枢が不安定で、呼吸のコントロールに乱れが生じて睡眠時無呼吸が起こる場合があります。このコントロールの乱れを調整したり、起こしにくくさせたりするものとして、炭酸脱水素阻害薬の一つであるアセタゾラミド、または睡眠薬や鎮静剤が睡眠時無呼吸に効果があることが報告されています。アセタゾラミドは呼吸中枢を刺激して呼吸の換気量を増加させる作用がありますが、利尿作用もありむくみを改善する効果もあります。上気道のむくみを改善させいびきに効果があるとの報告もありますが、今後さらなる研究が期待されるところです。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群やいびきは、気道を拡げるオトガイ舌筋を中心とした咽頭開大筋の睡眠中の緊張低下が原因の1つとして考えられています。この緊張低下にセロトニンが主に関与しているという考えから、セロトニン作用薬が使われるも先述したようにその効果はわずかでした。2005年以降、カナダのトロント大学での動物実験からノルアドレナリン作用薬がノンレム睡眠中の咽頭筋の緊張を上昇させ、抗ムスカリン作用薬がレム睡眠中の咽頭筋の緊張低下を防止することが示されました。このことを踏まえて、2019年米国ハーバード大学医学大学院ブリガムアンドウィメンズ病院のMontemurro医師らが肥満度2度以上で軽度から重度の睡眠時無呼吸症候群がある20名を対象に、ノルアドレナリン作用薬のAtomoxetineと抗ムスカリン作用薬のOxybutyninを投与して睡眠時無呼吸の治療を試みました。その結果、60%以上の無呼吸症状の改善が認められたと報告しました。Atomoxetineは注意欠如・多動症(ADHD)の治療薬であり、Oxybutyninは過活動膀胱の治療薬です。2021年台湾の国防医療センターが、国民の97%が加入している国民健康保険プログラムからAtomoxetineまたはOxybutyninを1年以上服用している約9千名を検討したところ、両薬を服用している人は睡眠時無呼吸症候群の有病率がコントロール群と比較して1/3であることを報告しています。これらの結果は、世界的に注目されており、日本でも検討が始まっています。
今まで述べてきた通り、何か病気によっていびきや睡眠時無呼吸が生じていない限り、いびき症状や睡眠時無呼吸症状に対する決定的に効果のある薬は現在ありません。しかし、甲状腺疾患、扁桃腺肥大、鼻炎などで生じているいびきは薬物療法でも改善する可能性があります。最近では逆流性食道炎でもいびき症状を生じることがわかってきており、胃酸逆流をおさえる薬でもいびきが改善することが報告されています。このように、いびきは様々な原因から生じています。自分のいびきがなぜ起こっているのかを専門的に診断してもらうことが、とても大切なことです。
当院ではなぜいびきが生じているのかを診断し、適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。
BMIが30以上の肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。
いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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