脂肪肝といびき
肝臓は、横隔膜の下、胃の横にあり、ヒトの体の中で最も大きな臓器です。肝臓の主な役割は、①蛋白質の合成・栄養の貯蔵、②有害物質の解毒、③胆汁の合成・分泌です。
肝臓の機能が悪くなると、これらの働きが低下するため、生命を維持することが難しくなります。肝機能が低下すると、全身倦怠感、食欲低下、嘔気、黄疸、皮膚のかゆみ、からだのむくみ、腹水などの症状が出現します。
しかし、肝臓は腎臓と同じく、沈黙の臓器と呼ばれており、障害の初期では症状が出ないことが多く、明らかな症状の出現は肝機能障害がかなり進行している可能性があります。健康診断や人間ドックなどで定期検査を受けることが大切です。
肝機能障害とは、肝臓の細胞になんらかの炎症が起きている病態を指します。血液検査でAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPというトランスアミラーゼと呼ばれる酵素の数値に異常がある場合に、肝機能障害が疑われます。これは、肝細胞がなんらかの原因で破壊されると多数の酵素が血中に放出されるためで、その量を調べることで肝機能を評価することができます。
肝機能障害が起こる主因としては、ウイルスによる肝炎、アルコール性肝障害、薬剤性肝障害、自己免疫性肝炎、脂肪肝(脂肪性肝炎)などがあります。ウイルス性肝炎の有病率は約2%、アルコール性肝障害は約0.03%、薬剤性肝障害は約0.0001%、自己免疫性肝炎は約0.02%、脂肪肝は約30%と報告されており、脂肪肝が肝機能障害を起こす最大の原因であることがわかります。
肝臓に脂肪が5%以上たまった状態を脂肪肝と呼びます。脂肪肝にはお酒を飲み過ぎたことによるアルコール性脂肪肝と、お酒をあまり飲まないのに肝臓に脂肪が貯まる非アルコール性脂肪肝があります。
米国ハイランド病院の報告では米国のアルコール性脂肪肝の有病率は約4%と報告されており、米国より飲酒量の少ない日本における有病率はさらに低率と考えられ、脂肪肝の多くは非アルコール性脂肪肝であることが予想されます。
NAFLDはアルコール性肝障害、ウイルス性肝疾患、薬物性肝障害などの他の肝疾患を除外したいろいろな原因で起こる脂肪肝の総称です。日本での有病率は23-29%と報告されおり、4人に1人にNAFLDを認めることになります。
この脂肪肝から徐々に進行する肝臓病を非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)といいます。NASHの日本での有病率は3%と報告されています。NAFLDの5-8%、NASHの10-20%が肝硬変に移行し、肝癌となる患者さんも報告されており、世界的に脂肪肝の取り扱いに注意が必要と現在議論されています。
食べ過ぎや運動不足などのためにカロリーの摂取量が消費量を上回ると、肝臓で中性脂肪が多く作られ脂肪肝となります。
つまりNAFLDを起こす主な要因は肥満です。悪化させる因子として、糖尿病、脂質異常、高血圧、年齢、遺伝子が報告されています。
しかし、肥満ではない人にもNAFLDは発症します。NAFLDの中で非肥満の割合は、アジア諸国で12-47%と報告により異なりますが、日本では15%と報告されています。民族により内臓肥満の割合が異なり、遺伝的要因が指摘されていますが、非肥満性NAFLDの原因は現在完全に解明されていません。
21世紀に入り、睡眠時無呼吸症候群と脂肪肝の関係を示す報告がされるようになってきました。2022年、韓国の国軍高陽病院における4,275人を対象とした検討では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群のリスクがあるグループでのNAFLDの有病率は51.4%と高率であることを報告しています。
呼吸の通り道が狭くて無呼吸となる閉塞性睡眠時無呼吸症を持つ人の70%が肥満であり、逆に肥満を持つ人の約40%に閉塞性睡眠時無呼吸症を認めるとアメリカから報告されています。肥満2度以上の人は脂肪肝の有病率は80%と報告されており、肥満と脂肪肝は強く関係しています。つまり、肥満と強く関係のある睡眠時無呼吸症候群の患者さんが脂肪肝となる可能性は高くなります。
ブドウ糖は、インスリンによって細胞に取り込まれます。日本における糖尿病の95%を占める2型糖尿病はこのインスリンがうまく働かなくなることで、ブドウ糖が血中にあふれてしまう病気です。余ったブドウ糖はグリコーゲンや中性脂肪に合成され筋肉や肝臓に蓄えられますが、その合成を促進するのもインスリンの働きです。つまり、インスリンはブドウ糖を細胞に取り込ませる作用とブドウ糖を中性脂肪に合成させる作用を持っています。血中のブドウ糖量が増えるとそれを減らす目的で膵臓からインスリンがさらに分泌されます。糖尿病により血中のブドウ糖量とインスリン量が増えることで肝臓に中性脂肪が増え、脂肪肝となることが理解できると思います。
2019年に20カ国の報告をメタ解析した米国の研究では、2型糖尿病患者さんのNAFLDの有病率は55.5%と報告しています。ハーバード大学による研究では、閉塞性睡眠時無呼吸症を持つ人は、持たない人に比べ糖尿病となる確率が約4倍高いと報告しています。つまり糖尿病と強く関係のある睡眠時無呼吸症候群の患者さんが脂肪肝となる可能性は高くなります。
睡眠時無呼吸症候群による慢性的な間欠的低酸素は、それ単独で脂肪肝を助長させることが、動物やヒトを対象とした研究で示されています。
夜間の間欠的低酸素血症は交感神経を緊張させ、それにより脳が刺激され糖代謝異常やインスリン抵抗性が引き起こされます。これにより糖尿病と同様な機序で脂肪肝を起こしてきます。
また、酸化ストレスにより炎症性サイトカインの産生や低酸素誘導性因子を誘発し、肝臓組織の炎症、線維化をおこしてきます。2017年米国、クリーブランドクリニックによる閉塞性睡眠時無呼吸症患者約150万人を含む3千万人の全米入院患者データを解析し、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどの他の因子を制御した検討にて、閉塞性睡眠時無呼吸症患者さんは睡眠時無呼吸症を認めない人と比較してNASHを発症する可能性が3倍高いことを報告しています。
つまり、非肥満性NAFLDの要因の一つとして睡眠時無呼吸症候群が考えられ、しかも脂肪肝を悪化させる要因にもなることを示しています。
2012年トルコ、ファーティッヒ大学による睡眠時無呼吸症候群にて検査を受けた約100人を対象とした検討にて、無呼吸の重症度に比例してNAFLDの有病率が高くなることを報告しています。その後、各国から報告があり、2020年イタリア、ローマ・ラ・サピエンツァ大学による過去5年で報告された13論文のメタ解析にて、NAFLDの重症度が閉塞性睡眠時無呼吸の重症度と関連していることを示しています。脂肪肝を診断されている人は、睡眠時無呼吸症候群の有無に気をつけなくてはいけないことがわかります。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を90%以上持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。2020年中国、山西医科大学による約2万人を対象とした検討で、いびきのない人と比較して、週に3回以上いびきのある人のNAHLDの有病率は1.29倍高率であったと報告しています。
脂肪肝と診断されていて慢性的ないびきをかく人は、近くの医療機関で睡眠時無呼吸の有無を検査することをお勧めします。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。
いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日・祝 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
10:00~13:00 | ○ | - | ○ | ○ | - | ○ | ○ |
14:00~18:00 | ○ | - | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
休診日:火・金(午前)
※受付終了時間は17:00となります。
※予約制:お電話か予約フォームよりご予約ください。