いびきとスマートウォッチ
スマートウォッチは、時刻の表示以外にBluetoothやWi-Fiを介してスマートフォンやその他のモバイルデバイスに接続し、通知の受信、電話の発信、メッセージの送信を可能にします。また音楽再生、スケジュール管理、GPSによる道案内などの機能が基本備えられています。さらに、歩数や心拍数、心電図、血中酸素、睡眠などの情報を取得でき、これらの情報に基づいた消費カロリーや運動量なども計測し、健康管理にも役立ちます。
2019年末に始まったCOVID-19の流行により世界中で健康管理意識が高まり、スマートウォッチの販売台数が増加し、日本でも2020年度に200万台を突破、2024年度に500万台を超えると予測されています。また、世界のスマートウォッチ市場は2022年に約5兆円と評価され、2035年までに約13兆円に達すると予測されており、ウェアラブルデバイスとして多くの人が今後使用することがわかります。 最近のスマートウォッチの中には睡眠の質を評価するものも増えています。今回、スマートウォッチといびきについてお話しします。
スマートウォッチは内蔵されているマイク、加速度センサー、フォトプレチィスモグラフィ(photoplethysmography:光電脈波)にて、いびき、睡眠時間、睡眠深度、睡眠の中断回数などを測定し睡眠の質を評価しています。
加速度センサーは、体動を検知し睡眠中か覚醒中かを区別します。フォトプレチィスモグラフィには透過式と反射式があり、スマートウォッチは光源と検知器が同じ側にある反射式です。センサーより投入した光線が主として皮下数mmまでに存在する血液および皮下組織で吸収、散乱、反射し、再び検知器に戻った光量を測定し、皮膚や皮下組織に分布する微小血管の容積変化を示し、心拍数や血圧を半定量的に測定することができます。
夜間睡眠中には心拍数の減少と血圧の低下が生じます。また睡眠中の心拍変動は睡眠深度の影響を受けます。フォトプレチィスモグラフィにてこれらを検知して、睡眠時間、睡眠深度を測定します。
2022年オーストラリアのセントラルクイーンズランド大学の研究グループが現在一般的に使用されているスマートウォッチ・バンドの測定結果を、多種のセンサーをつけて睡眠の質を測定する医療機器のポリソムノグラフィーの測定結果と比較した報告があります。これによると、睡眠時間の一致率は各社とも80-90%でしたが、睡眠深度は50-60%であったと示しています。つまり、現在のスマートウォッチ・バンドでの睡眠の質が悪く評価されても、落ち着いて判断しても良いことを示しています。
≫眠気といびき睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中の呼吸停止や低換気によって日中の眠気、集中力の低下や疲労などの症状を起こします。さらに、高血圧や糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞など循環器疾患、メタボリックシンドロームを引き起こす原因とも考えられており、睡眠時無呼吸症候群は決して放置して良いものではありません。
最も正確に無呼吸が診断できるのはポリソムノグラフィーです。脳波、眼球運動、オトガイ筋電図にて睡眠の質を測定し、鼻口気流、胸腹部の換気運動、心電図、パルスオキシメーター(血中酸素飽和度と脈拍数を測定する機器)で呼吸の状態を測定する検査です。ただし、病院に最低でも一泊して測定しなくてはいけない煩わしさがあり、検査費用も高価です。
費用が安く自宅にてできる簡易睡眠検査は呼吸回数とパルスオキシメーターを用いて睡眠時無呼吸を測定します。しかし、これも医療機関を受診し、測定値を判断し結果を出すために時間を要します。
睡眠の質を測定することが可能になってきたスマートウォッチ・バンドを睡眠時無呼吸症候群の診断に活用できないか、現在世界中の研究者が注目しています。スマートウォッチ・バンドの検知器の性能が最近向上し、血液中の酸素の量(血中酸素飽和度)も測定することができるようになりました。
2021年中国人民解放軍総医院にてスマートウォッチのフォトプレチィスモグラフィ信号(睡眠時間、血中酸素飽和度)から無呼吸低呼吸指数を計測し、簡易睡眠検査と比較した研究によると、中等度睡眠時無呼吸症候群の診断精度が85%以上であったと示しています。2022年アイルランドのマンスター工科大学の研究チームは95%以上の精度で睡眠時無呼吸症候群を診断できると報告しています。今後、スマートウォッチよる睡眠時無呼吸症候群の有無の判断が一般化してくることが期待できます。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を9割持っていて、逆に慢性いびき症の3割に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。つまり、睡眠時無呼吸症候群の有無を判断するためにはいびきの有無は大切になります。
現在はスマートフォンのアプリを使うと、いびき音を簡単に録音することができます。現在までに多くのいびきアプリが販売されており、いびきの有無は自身でも簡易に判定できます。
ただし、測定するのにマイクの位置はとても大切です。マイクを音源から遠くなるほど音は小さく、近づくほど大きく録音されます。顔面から約30cm離して測定することが勧められています。
スマートウォッチを装着しながら、顔面より30cm離して就寝するのは難しいため、スマートフォンを介して録音するのが一般的です。いびき音から睡眠時無呼吸を判定する研究も行われており、将来スマートウォッチによる睡眠時無呼吸症候群の診断精度がさらに上がることが期待されます。
当院では、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っており、口蓋垂とその周辺の軟口蓋を切除し糸で縫い上げることで上気道を広くし、いびきや睡眠中の呼吸状態を改善します。 BMIが30以上の肥満があり睡眠時無呼吸を伴っている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。
スマートウォッチでいびきが録音され、睡眠の質が悪いことが連日示され、取り込まれた酸素のレベルが睡眠中に低い場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。いびきや睡眠時無呼吸の治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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