喫煙といびき
タバコの原料であるナス科ニコチアナ属の植物の起源はアンデス山中と考えられています。紀元前400年から栄えていたマヤ文明ではタバコは宗教的儀式に用いられていました。その後、個人としての喫煙の文化はアメリカ大陸で芽生えました。1492年10月11日にアメリカ大陸を発見したコロンブスは先住民族のアラワク族からタバコをもらい、喫煙の文化がヨーロッパ世界に広がっていきます。コロンブスが新大陸を発見した約50年後にポルトガル人の乗った船が種子島に漂着し、日欧間で貿易が行われるようになり、1600年前後には喫煙の文化が日本にも入るようになります。江戸時代には庶民の間で喫煙がされるようになっていますが、タバコの栽培製造販売が本格化した明治以降に喫煙の習慣がさらに広がりました。紙巻タバコの販売数を見てみると、1970年前後が最も多く、その頃の喫煙率は男性80%、女性18%でした。徐々に喫煙率が減少し、販売本数も1996年頃より減少しています。2018年のJT全国喫煙者率調査では喫煙率は男性27.8%、女性8.7%です。
世界保健機関(WHO)が2018年に報告した内容によると、喫煙率が最も高いのは男性が東ティモールで78.1%、女性はモンテネグロで44.0%です。WHOの統計では、日本は男性33.7%で世界70位、女性11.2%で世界55位でした。喫煙文化発祥のアメリカは男性24.6%で104位、女性は19.1%で39位です。日本の喫煙率は先進国の中でもやや高めといわれています。日本のタバコ1箱は平均480円で、その約63%は税金として徴収されていますが、ノルウェー1,200円、オーストラリア960円、イギリス875円、ドイツ546円、アメリカ506円と諸外国に比べてまだ安価であることも喫煙率と関係していると考えられています。
タバコの煙は4,000種類以上の物質を含みますが、その成分のうち有害物質として認定されているのは約200種類です。特にタール、ニコチン、一酸化炭素は健康有害性が高いとされています。ニコチンは自律神経を介して血圧を上げる作用があります。また中枢にある神経回路に作用して心地よさをもたらすことから、薬物依存を引き起こします。厚生労働省によるとタバコは肺がん、心筋梗塞などの虚血性心疾患、肺気腫などの慢性肺疾患などの多くの病気や低出生体重児、流・早産など妊娠に関連した異常の危険因子であるとしています。非加熱・加熱式タバコや電子タバコは、従来型の紙巻きタバコと比較して、「税率が低い」、「煙が出ない、見えにくいので禁煙のエリアでも吸える」、「受動喫煙の危険が少ない」、「健康リスクが少ない」と考えられ、ここ10年で急速に広がっています。しかし、非加熱・加熱式タバコはニコチン、タールが含まれています。電子タバコはニコチンを含んだリキッドは規制により基本販売されていませんが、含まれていないENNDSであってもその半数以上にニコチンが微量含まれていることが報告されており、また発がん物質のホルムアルデヒドをはじめ各種有害化学物質も含まれていることも判明しています。このように百害あって一利なしと言われているタバコですが、いびきや睡眠時無呼吸にも影響を与えるといわれています。本当にそうなのでしょうか?
成人2,298名を対象としたシンガポールにおける検討では、喫煙本数が1日20本以上だといびきをかく確率が非喫煙者の約2倍と報告しています。アイスランド、エストニア、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの大学による2004年の共同研究では、非喫煙者に比べ喫煙者や受動喫煙者にいびきが認められる確率が1.5倍高いことが示されています。喫煙者ではなく受動喫煙者つまり喫煙者の横でタバコの煙を吸っていてもいびき出現率が高くなることが注目されます。これは小児に対しても影響があることを意味しています。イタリアにおける6~13歳の小児1615名を対象とした研究で、両親が合計して一日20本以上喫煙している場合は両親が喫煙していない小児と比較して約2倍のいびき出現率があることを報告しています。タバコの煙により鼻やのどの粘膜が慢性炎症を起こし腫れ、また口蓋扁桃や咽頭扁桃が慢性炎症で腫大するために空気の通り道(上気道)が狭くなり、いびきが生じると考えられています。2020年オーストラリアから15万人のいびき症状のある人を対象とした検討では、女性は喫煙回数が増えるといびきの有病率が上昇することを報告しています。女性の方が気道の過敏性が高いことが報告されており、喫煙の影響を受けやすいことを示しています。
2001年米国の検討では、睡眠時無呼吸を持っていない群の喫煙率が18%で閉塞性睡眠時無呼吸症候群では35%と明らかに高率であったことを示しています。1994年米国ウィスコンシン大学の検討では、現在喫煙している群は閉塞性睡眠時無呼吸症候群を起こす確率が高くなりますが、過去に喫煙し現在喫煙していない群は睡眠時無呼吸を起こす確率が非喫煙群と変わらないことを示しています。これは睡眠時無呼吸に対するタバコの影響は一時的なものであることを示しています。喫煙が閉塞性睡眠時無呼吸症候群を起こす機序は、いくつか考えられています。まず、喫煙による影響で入眠時間や睡眠時間が短縮、睡眠の深度が障害されるなど睡眠構築が変化することです。次に、ニコチンによって覚醒の閾値が上昇することです。ヒトは、睡眠中に無呼吸などの低酸素状態になると、目覚めて呼吸を再開するように反射機構が備わっています。ニコチンによってこの反射や感度が障害されると、低酸素の状態が持続し無呼吸症状となります。そして、喫煙によって鼻腔粘膜や扁桃に炎症を起こし腫れることによって気道が狭くなり睡眠時無呼吸となります。一方、2002年スペインでの検討では喫煙者と非喫煙者では睡眠時無呼吸指数に差が無かったと報告しています。喫煙がどの位に睡眠時無呼吸に影響を与えるのか現在も議論されているところです。
禁煙補助薬を使いながら禁煙をすることは2006年より保険適応となっています。
この2つの質問に当てはまっている場合はニコチン依存症の可能性があります。専門の医師による診察が必要です。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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