睡眠時無呼吸症候群といびき
睡眠時無呼吸症は、文字通り睡眠中に無呼吸となる症状をいいます。その原因は様々ですが、検査で睡眠中に10秒以上の呼吸が停止し、それが1時間あたり5回以上繰り返される、または一晩の睡眠中(7時間)に30回以上認められると睡眠時無呼吸症候群と診断されます。無呼吸は基本的には、空気の通り道が狭くて換気がしにくい閉塞タイプと呼吸をコントロールする脳が不良となる中枢タイプに分けられます。閉塞タイプと中枢タイプが合わさった混合タイプもありますが、このタイプは閉塞タイプに分類されていることが多く、そのために成人の睡眠時無呼吸症候群の90%が閉塞タイプと診断されています。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中の呼吸停止や低換気によって日中の眠気、集中力の低下や疲労などの症状を起こします。運転中に居眠りをして大きな事故を起こすことが社会的問題にもなっており、最近よく報道されています。さらに、睡眠時無呼吸症候群が高血圧や糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞など循環器疾患、メタボリックシンドロームを引き起こす原因とも考えられており、決して放置して良いものではありません。
厚生労働省によると、日本では成人の約15%が日中の眠気を自覚していると報告しています。その中には、睡眠時無呼吸症候群の他に不眠症などの睡眠障害が含まれます。海外の報告では閉塞性睡眠時無呼吸症候群となっている人の割合は2%~28%としています。肥満の割合の多い米国が最も多い頻度を報告しています。香港は2.1%、インドは3.6%、韓国は15%とアジア諸国でもばらつきがあります。日本の報告でも、診断方法や対象者の違いにより閉塞性睡眠時無呼吸症の有病率は2%~22%と報告によってさまざまです。有病率を2%としても、閉塞性睡眠時無呼吸症候群は最低200万人以上の患者さんが日本にいることになります。しかし、その80%以上の人が診断されていないと推定されています。2013年のウイスコンシン大学(米国)からの報告では、30~49歳の男性の10%、女性の3%、50~70歳の男性の17%、女性の9%に睡眠時無呼吸症を認めるとしています。このように睡眠時無呼吸症候群は年齢によって増加し、男性に多いことがわかります。
中枢性睡眠時無呼吸の多くは、成人では心不全や脳卒中に伴って認められます。睡眠時無呼吸症候群の多くを占める閉塞タイプは基本的に呼吸の通り道(気道)が狭くなって生じます。特に首から上の気道(上気道)の狭窄や閉塞で生じます。上気道狭窄や閉塞の原因はいろいろです。アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、鼻中隔弯曲症は鼻閉の原因となり、扁桃肥大、口蓋垂肥大、軟口蓋低位は咽頭狭窄の原因となります。下顎が小さいと口の中で舌がはみ出してしまうために咽頭狭窄を引き起こします。肥満は首回りに脂肪がつき舌が後方に押し出され、のどの裏側にも脂肪がつくことで後壁が前方に押し出され、呼吸の通り道が前後から圧迫され狭くなります。肥満の人の約40%に閉塞性睡眠時無呼吸症を認めるとされています。先に示しましたが加齢により睡眠時無呼吸症を患う人が増えてきますが、これは長年にわたるいびきが口蓋垂肥大を助長させたり、のどを拡げる筋肉の緊張が落ちたり、脳梗塞の罹患率が増えることなどが原因と考えられています。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を90~98%持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。このようにいびきと睡眠時無呼吸症候群は強く関係しています。では、いびきが睡眠時無呼吸をつくるのでしょうか?
睡眠時無呼吸症候群を伴っていない単純性いびき症の患者さんで、5年以上何も治療をしないで経過観察ができた28名を対象に調べてみると、大半の人が軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群になっていたことが2009年イスラエルから報告されています。この原因に体重の増加が関係していることがわかっています。つまりいびきがある人が太ると睡眠時無呼吸になる可能性が高いことを示しています。
アメリカ、カナダ、スェーデンからの最近の研究では、毎日のようにいびきをかいて、のどの組織に振動を与えていると、空気の通り道の構造を支えている筋肉や神経がダメージを受けて、気道の構造を支えきれなくなり狭くなることが報告されています。つまり体重が増加しなくてもいびきを放置していると、さらに気道が狭くなり睡眠時無呼吸になったり、無呼吸が重症化したりすると考えられています。いびきを安易に放置すると危険なことがわかります。
このように、無呼吸を伴っていないいびきから睡眠時無呼吸になることは過去に報告されていますが、どのようにして「単純性いびき症」が「睡眠時無呼吸症候群」となるのかは現在も解明されていません。
ハーバード大学医学部附属病院の研究グループが睡眠時無呼吸症候群の病因を4つに分類し、その鑑別方法を2011年に報告しています。これによると、上気道が狭い要因、気道の構造を支える筋肉(上気道開大筋)や神経の障害される要因、呼吸を調節している脳が不安定な要因、脳が睡眠から覚醒しやすい要因に分類されています。
息苦しくなり脳が睡眠から覚醒する覚醒反応は、睡眠中の無呼吸を終わらせるのに必要な生体防御反応と考えられていました。最近ではこの覚醒反応を繰り返すことが睡眠時無呼吸症状を繰り返すこととなり、症状の改善にはなっていないことが指摘されています。つまり、脳の覚醒反応が起きやすい状態は睡眠時無呼吸が助長される可能性があります。この4つの要因が各々どのくらいの割合で関与して睡眠時無呼吸を起こしているのかにより、その治療方針を決定していくのが最近の考えになってきています。
つまり、上気道の狭い具合や上気道狭小要因以外の3要因が各々どのくらい関与すると「単純性いびき症」から「睡眠時無呼吸症候群」となるのかが今後解明されていく可能性があり期待されています。
睡眠時無呼吸症候群を正しく診断するためにはポリソムノグラフィー検査が必要です。これは、脳波、眼球運動、筋電図、呼吸運動、いびき音、心電図、酸素飽和度などを夜間に記録して、眠りの深さや睡眠障害の有無、睡眠中の体位などを測定します。この検査は病院にひと晩入院しなくてはならず、また普段と環境が違うために患者さんが熟睡できない時もあるのが欠点です。呼吸運動、いびき音、酸素飽和度を計測できる小型の装置で自宅にて計測する簡易検査は、普段寝ている環境で行う長所があります。しかし、自ら装着するためにうまく測定ができていない、睡眠の深さがわからないこともあり一長一短です。これらの検査で無呼吸の回数や無呼吸低呼吸指数(AHI)を測定します。AHIによって睡眠時無呼吸症候群の重症度が分類されています。
軽度:5~14回/時間 中等度:15~29回/時間 重度:30回以上/時間 AHIが5以上で睡眠時無呼吸症候群と診断されます。20以上で積極的な介入が必要とされています。
装置を用いた検査はコストがかかり、手間がかかるのでスクリーニングとしては不向きです。睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約85%が感じる日中の眠気に焦点を置いてアンケート方式で調べる方法が1991年にオーストラリアから発表されました。エプワース眠気尺度(Epworth sleepiness Scale:ESS)です。現在最も一般的に行われている日中の眠気の自己評価指標です。もし、以下の状況になったとしたら、どのくらいうとうとする(数秒~数分眠ってしまう)と思いますか?最近の日常生活を思いうかべてお答えください。
総得点が11点以上の場合は睡眠時無呼吸症候群の可能性があるので、専門の医師に一度ご相談されることをお勧めします。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。BMIが30以上の肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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