うつ病といびき
憂(ゆう)うつで落ち込んだ気分となり、今まで興味を持っていたことにも興味がなくなり、何もする気が起こらない状態が一日中で、ほぼ毎日が2週間以上に継続している場合は、うつ病の可能性があります。
厚生労働省の2017年の患者調査によると気分障害(うつ病、躁うつ病を含む)の総患者数は127.6万人と示されています。2016年厚生労働省科学研究費による大規模調査ではうつ病の有病率は5.7%(17人に1人)と報告されています。また、65歳以上の高齢者になると15%(7人に1人)の有病率とも報告されています。つまり、決して珍しい病気ではありません。しかも、女性は男性の2倍うつ病にかかりやすく、2018年米国立衛生統計センターの報告では、成人女性の10人に1人がうつ病であると推定しています。
その原因は「心の弱さ」から起きているのではなく、脳内の神経信号の伝達がうまくいかないために生じる病気であり、適切な治療を受ければ治すことのできる病気です。うつ病は心の症状ばかりでなく、頭重感、肩こり、胸部不快感、咽頭異物感、食欲低下など体の症状も起こします。睡眠障害は、うつ病の患者さんの80%以上が訴える症状です。
睡眠時無呼吸症候群の多くは、首から上の空気の通り道(上気道)の狭窄や閉塞で生じる閉塞性睡眠時無呼吸症候群です。睡眠時無呼吸症候群の有病率は2%以上といわれています。
以前から、睡眠時無呼吸症候群の患者さんにうつ病を併発している割合の多いことが報告されています。2005年米国ベイラー医科大学で約12万人を対象とした検討では、睡眠時無呼吸症候群と診断されている人は、診断されていない人と比較してうつ病の有病率が2倍以上高いことを報告しています。また、2013年中国台北医科大学で約2,800人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんを調べた検討では、睡眠時無呼吸のない人と比較して1年後にうつ病となっている割合が2倍ほど高いことを示しています。最近では、2019年韓国で197名の閉塞性睡眠時無呼吸症候群を調べると、うつ病の有病率は男性で2.7倍、女性で4.0倍ほど無呼吸のない人に比べて高かったと報告しています。ここで女性が高率なのは、先に述べたように女性の方がうつ病になりやすいことを反映しています。
睡眠時無呼吸症候群とうつ病が併発しやすいメカニズムはいまだに解明されていません。
うつ病の治療薬である抗うつ薬は、抗ヒスタミン作用、抗セロトニン受容体作用にて満腹中枢が麻痺し、太りやすくなります。また、代謝障害や運動不足から肥満が増大し、閉塞性睡眠時無呼吸症候群になりやすくなると報告されています。また、うつ病は脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンが、ストレスなど何らかの要因で減少することで発症すると考えられています。
セロトニンは上気道を拡げる筋肉を刺激する作用もあるので、セロトニンが減少すると上気道が狭窄しやすくなり、閉塞性睡眠時無呼吸になりやすくなるとも考えられています。つまり、うつ病によって閉塞性睡眠時無呼吸症候群になりやすくなることが理解できます。
では逆に、睡眠時無呼吸がうつ病を起こす可能性はあるのでしょうか?睡眠時無呼吸症候群はその無呼吸、低換気から血中の酸素濃度が下がることにより(息苦しくなり)、中途覚醒や睡眠の分断化を生じ睡眠が障害されます。2013年国立精神・神経医療研究センターの研究グループは、睡眠不足によって感情の中枢である扁桃体(脳の一部)の興奮を抑制する機能が障害されることを示しました。これは、睡眠不足によって不安や恐怖の感情を抑制することができなくなることを意味し、うつ病を起こす一因として考えられています。
実際に、睡眠時無呼吸症候群を改善させる持続陽圧呼吸療法(CPAP)を行うことで、併発していたうつ病が改善されることが、2019年中国によるメタ解析で証明されています。睡眠時無呼吸による睡眠障害がうつ病を起こす可能性があるということです。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を90%以上持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。このようにいびきと睡眠時無呼吸症候群は強く関係しています。
2015年米国ハーバード大学で800万人を対象とした検討では、いびきのある人はない人と比較して1.3倍うつ病の有病率が高いことを報告しています。同じく、2018年中国北京大学で50万人を対象とした研究では、いびきを持つ女性は持たない女性と比較して1.3倍うつ病の有病率が高いことを示しています。
これらの報告から、うつ病を併発しているいびき症例は睡眠時無呼吸症候群を持っている可能性があることを示唆しています。つまり、憂うつな気分が続いていていびき持っている場合は、睡眠時無呼吸症候群を持っている可能性があり、放置しないで専門の医師に診察してもらうことを勧めます。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。
適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。BMIが30以上の肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。
いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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