筋肉減少といびき

私たちの体を支える筋肉は、運動による刺激と食事からとる栄養によって作られ、維持されています。 この筋肉量の減少は30歳後半から40歳代にかけてゆっくりと始まり、50歳代より機能も衰え目立ってきます。このような筋肉減少、機能低下を「サルコペニア」(加齢性筋肉減少症)と呼びます。
サルコペニアは、米国のタフツ大学の IH. Rosenberg先生が1989年に提唱した概念で、ギリシャ語で筋肉を表すsarxと、喪失を意味するpeniaを組み合わせた造語です。
筋肉量が減少すると、筋力低下や疲れやすさ、歩行速度の低下が起こり、転倒・骨折、日常生活動作の低下、要介護化のリスクが高まります。さらに、サルコペニアは死亡リスクを上昇し、入院後の回復遅延、術後合併症や在院期間の延長、嚥下障害、代謝異常、認知症とも関連します。見過ごして良い疾患ではありません。
サルコペニアの有病率は報告によって様々ですが、対象者が1,000人以上の大規模研究によると55歳以上の6〜12%と報告されています。決して珍しい疾患でもありません。サルコペニアとならないために予防がとても重要と考えられています。
サルコペニアを起こす原因は、加齢による一次性と活動不足、栄養不良、疾患によって起こる二次性に分けられます。ベッド上安静や寝たきりが継続すると骨格筋量が減少することが報告されています。タンパク質、アミノ酸、魚のあぶらに多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸、ビタミン、果物・野菜などに多く含まれる天然色素成分であるカルテノイドなどの摂取不足がサルコペニア誘発原因として報告されています。
疾患としては、糖尿病、肥満、慢性閉塞性肺疾患、悪性腫瘍、慢性腎臓病、骨粗鬆症、関節リウマチ、認知症などでサルコペニアの有病率が高くなることが報告されています。
最近、睡眠時無呼吸症候群とサルコペニアの関係が報告されてきています。
2024年中国、廈門大学による米国国民健康栄養調査の約4千人のデータ解析にて、睡眠時無呼吸症候群のサルコペニア有病率は一般より2.7倍高いことを報告しています。
睡眠時無呼吸症候群は睡眠が途中で何度も切れ、実際の睡眠時間が減り、睡眠の質が落ちます。
睡眠不足はホルモンの変化を引き起こします。筋肉量を増やすホルモンである下垂体前葉ホルモン(ソマトトロピン)、ペプチドホルモン(IGF-1)、テストステロンの分泌が低下し、筋肉を分解するホルモン(コルチゾール)と筋肉の成長を抑制するタンパク質(ミオスタチン)の分泌が増加します。
また睡眠時間の低下はインスリン放出量、インスリン感受性、糖排出率が低下することが研究で示されています。インスリン抵抗性が高まることで、筋肉の分解が促進され、筋肉の成長が抑制されます。このような筋肉の分解と成長の不均衡は、サルコペニアを助長します。

また、睡眠時無呼吸症候群はサルコペニアを引き起こす糖尿病、肥満、慢性腎臓病、骨粗鬆症を発症させます。さらに、睡眠の質が低いとサルコペニアの発症を防ぐ上で重要な役割を果たす身体活動が減少します。
これら要因によって睡眠時無呼吸症候群がサルコペニアになると考えられています。
2025年ポーランドの大学による過去に報告された63件の研究からの検討では、筋肉から分泌されるミオカインがサルコペニアによって変化を起こし、それが睡眠障害を起こすことが報告されています。
つまり、睡眠時無呼吸症候群とサルコペニアには相互作用があることがわかります。
いびき単独とサルコペニアの関係は現在まで報告されていません。睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を90%以上持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。60歳以上で慢性的ないびきがある場合、サルコペニアを注意する必要があります。
2012年国際サルコペニア研究会議で示されたスクリーニング方法(SARC-F)を示します。
4点以上でサルコペニアの可能性があります。整形外科、内科の受診を勧めます。
また、慢性的ないびきを伴っている場合は、睡眠時無呼吸の検査を近医でお受けになることを勧めます。
いつまでも自分の足で歩き、健康寿命が延ばせるように、若い時から栄養バランスの良い食事を摂り、筋肉量や筋力を維持する運動の習慣を心がけることがサルコペニアの予防となります。
| 0点 | 1点 | 2点 | |
|---|---|---|---|
| 4.5kgの荷物の持ち運びは? | 全く困難ではない | いくらか困難 | 非常に困難/できない |
| 部屋の端から端までの歩行移動は? | 全く困難ではない | いくらか困難 | 非常に困難/できない |
| 椅子やベッドからの立ち上がりは? | 全く困難ではない | いくらか困難 | 非常に困難/できない |
| 階段を10段上がることは? | 全く困難ではない | いくらか困難 | 非常に困難/できない |
| この1年で何度転倒しましたか? | なし | 1~3回 | 4回以上 |
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。
適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。
いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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