不眠症といびき
「不眠症」という言葉を知らない人はいないと思います。一般には「なかなか眠れない病気・一時的なストレスの結果」というイメージが強く、疲れや不安、ストレスと結びつけて理解されがちです。
日本における大規模な疫学調査によると、不眠を訴える人は国民の23.5%に認めると報告されています。2019年の国民健康栄養調査では、「睡眠の質に満足できなかった」21.8%、「日中眠気がある」34.8%と睡眠に関する悩みが一般的であることがわかります。
今回は不眠症といびきの関係をお話しします。
日本では、不眠症(不眠障害)は「睡眠の機会が十分あるのに、入眠困難(寝つきが悪い)、中途覚醒(途中で目が覚める)、早朝覚醒(早く目が覚める)、熟眠障害(よく眠った感じがしない)などが続き、その結果として日中の眠気、倦怠感、集中力低下、気分不良など日中に支障が出る状態」として扱われます。
単に「眠れない」だけでなく、日中の機能低下があることが重要です。また、こうした症状が週3回以上みられ、少なくとも3ヶ月程度持続する場合は慢性不眠として評価されます。

不眠症の原因は1つとは限らず、生活習慣・心理的要因・身体疾患・精神疾患・薬剤/嗜好品が重なって起こることが多いです。
主な原因は、①不規則な睡眠、夜更かし、交代勤務、昼寝しすぎ、寝る前のスマホ、カフェイン・喫煙・飲酒などの生活習慣、②ストレス、環境変化、睡眠へのとらわれ、③痛み、かゆみ、頻尿、咳、呼吸困難、発熱、内分泌・代謝疾患、神経疾患などの身体要因です。
さらに、うつ病、不安症、アルコール依存などの精神医学的要因は不眠と強く関連し、不眠はその後のうつ病や不安症の発症リスクも高めます。
誤った睡眠に関する知識、不眠恐怖、薬物の使用などが加わると慢性不眠症(3ヶ月以上)へと移行します。薬物としては、ステロイド、甲状腺薬、気管支拡張薬、抗パーキンソン病薬、一部の降圧薬やH2ブロッカー、抗うつ薬の一部、アルコールやカフェインが不眠症の原因になります。
近年、睡眠時無呼吸症候群と不眠症の関係が多く報告されてきています。
睡眠時無呼吸症候群の主な症状は、強いいびき、睡眠中の覚醒、そして日中の眠気です。
睡眠中に無呼吸、低換気から血中の酸素濃度が下がることにより(つまり息苦しくなり)、中途覚醒や睡眠の分断化を生じ、深い眠りが障害され日中の眠気が起こると考えられています。
日中の眠気が生じる睡眠時無呼吸症候群と眠れない不眠症とは相対する関係のように見えますが、相互関係が示されています。

1973年米国、スタンフォード大学のクリスチャン・ギルミノ(睡眠時無呼吸症候群の概念を確立した人)が不眠症と睡眠時無呼吸症候群の合併を最初に報告しています。
1976年同じくギルミノは慢性不眠症の症状で紹介された56名の患者さんのうち、10.7%に睡眠時無呼吸症候群を認めたと報告しています。しかし、その後30年ほど不眠症と睡眠時無呼吸の関係はほとんど報告されていませんでした。
1999年米国、メンフィス大学から80人の不眠症患者さんのうち、43%に睡眠時無呼吸症候群を認め、2001年米国、アルバカーキの研究所から231名の睡眠時無呼吸症候群の患者さんのうち、50%に不眠症を認めたと相次ぎ報告されてから、不眠症と睡眠時無呼吸症候群の関係が世界で注目されるようになりました。
2010年米国、ピッツバーグ大学から過去の報告を調査したところ、不眠症の29%~67%に睡眠時無呼吸を認め、睡眠時無呼吸症の39%~58%が不眠症状を訴えるとしています。
これは、一般の人の不眠を訴える割合より高いことがわかります。
2017年南オーストラリア大学のアレクサンダー・スウィートマンが不眠症と睡眠時無呼吸症候群の併発(COMorbid Insomnia and Sleep Apnea)をCOMISAという用語を造語し、研究が盛んになりました。
2019年中国、四川大学による過去の報告のメタ解析では、睡眠時無呼吸症候群の患者さんが不眠を訴える場合、入眠困難が18%、中途覚醒42%、早朝覚醒21%、熟眠障害36%であったと報告しています。
不眠症と睡眠時無呼吸症候群がなぜ併存しやすいのでしょうか?
睡眠時無呼吸症候群の特性から、中途覚醒や熟眠障害が生じやすいのは先に説明しました。また、睡眠時無呼吸症候群は夜間頻尿の原因でもあり、中途覚醒や早朝覚醒となりやすくなります。
さらに、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは昼間の眠気を軽減するために、ベッドでの時間を延長したり、昼寝をしたり、カフェイン摂取量を増やしたりすることがあります。これらの行動パターンが入眠困難となる可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群は不眠症を起こすことが理解できます。逆に不眠は、脳皮質の過覚醒や睡眠の断片化を起こし、これが脳の覚醒閾値を低下させ、そのため睡眠中の呼吸不安定性が増加し、睡眠時無呼吸が増悪することも最近報告されています。
つまり、最近の研究では不眠症と睡眠時無呼吸症候群は相互関係の存在と考えられています。

COMISAの患者さんは、不眠症または睡眠時無呼吸症の患者さんと比較して、昼間の活動能力や生活の質に対する障害が大きくなることが示されています。
2017年以降、多数の研究において、不眠症または睡眠時無呼吸症候群単独の患者と比較してCOMISAの患者さんに抑うつ・不安症状の増加、日中の眠気、生活の質の低下、認知機能の低下が、確認されています。
2021年米国、ハーバード大学から約1万2千人を対象に、6年間の追跡調査後から不眠症または睡眠時無呼吸がない人と比較して、COMISAは新規高血圧の発生確率が2倍、睡眠時無呼吸症のみの群は1.55倍、不眠症のみの群は1.37倍高いことが示され、COMISA群が高率であることが報告されています。
つまり、睡眠時無呼吸症候群が軽症〜中等症でも、不眠症を合併すると体への影響や日中機能低下は「無呼吸単独」より強くなります。そのため、軽症の睡眠時無呼吸症候群でも不眠が伴う場合は、生活への影響は想像以上に大きいことがあります。
いびき、呼吸停止、夜間覚醒、熟眠感のなさ、日中の眠気や倦怠感があれば、重症度にかかわらず評価と併存不眠の治療を考えなくてはいけません。
単純ないびきと不眠症の関係は現在まで報告されていません。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんはいびき症状を90%以上持っていて、逆に慢性いびき症の約30%に睡眠時無呼吸症を持つと報告されています。
不眠症状があり、慢性的ないびきがある場合、睡眠時無呼吸の検査を近医でお受けになることを勧めます。COMISAとなっている可能性があります。
不眠症の治療として睡眠薬が処方されることもありますが、睡眠薬の中には睡眠時無呼吸を悪化させる薬もあります。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、上気道筋の緊張を下げて気道をつぶれやすくし、さらに無呼吸時に「起きて呼吸を再開する反応(覚醒反応)」を鈍らせることが報告されています。
COMISAの治療は、「不眠」と「睡眠時無呼吸」の両方を評価して治療していく必要があります。海外の報告では不眠症の治療を先行した方が効果の高いことが示されています。
不眠症の治療は、まず原因評価を行ったうえで、第一選択は不眠症に対する認知行動療法です。
日本で不眠症の認知行動療法(CBT-I)を指導してくれるのは、精神科・心療内科、睡眠外来/睡眠センターです。
当院では、なぜいびきが生じているのかを診断しています。
適応のある患者さんに対しては、レーザーによるいびき治療を保険診療で行っていますが、外科的な治療ばかりがいびき治療ではありません。
肥満があり重症な睡眠時無呼吸をともなっている場合は、まず体重の減量とCPAP治療やマウスピース装用を勧めます。
いびきについて悩んでおり、治療について診察を受けたい方は当院へ気軽にご相談ください。
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